「うちも生成AIを導入した」という報告は、この1年で経営会議の定型句になりました。総務省の令和8年版情報通信白書によれば、自社の何らかの業務で生成AIを利用していると回答した日本企業は86.4%にのぼり、2024年度調査から大きく上昇しています(参照:総務省「令和8年版情報通信白書(概要)」(2026年7月))。個人の生成AI利用についても、以前「日本の生成AI利用率は26.7%。世界と比べて遅れているのか」で取り上げた時点から、さらに数字は伸びています。
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ところが、多くの企業が実際に直面しているのは「使い始めた後」の壁です。試しに使ってみる段階は個人の裁量でも進みますが、それを特定の業務プロセスに組み込み、日常的に動く仕組みにする段階になると、途端に足が止まります。同白書でも、生成AIによる業務変革について「組織的な取組はない」と回答した日本企業は約3割(27%)にのぼり、他の3か国(米国1.4%、ドイツ4.9%、中国2.6%)より高い水準です(参照:総務省「令和8年版情報通信白書(概要)」(2026年7月))。導入率と実装率のあいだに、想像以上に大きな溝があるということです。
この溝を埋めようとしたとき、経営者やDX推進の責任者が共通して直面する問いがあります。「これを作るのは、外の会社に頼むのか、自分たちでやるのか」。本稿では、この問いに外注と内製の二択だけで答えようとしたときに何が起きるかを、統計データと自社の支援現場での経験から整理し、第三の選択肢について考えます。
まず、現在地を数字で確認します。総務省の調査では、生成AIの活用方針として「積極的に活用する方針」または「活用する領域を限定して利用する方針」と回答した日本企業は2025年度調査で68.9%となり、2024年度調査の49.7%から大きく上昇しました。企業規模別では大企業74.0%、中小企業58.1%です(参照:総務省「令和8年版情報通信白書(概要)」(2026年7月))。
一方、帝国データバンクが2026年3月に実施した調査(全国2万3,349社に送付、有効回答1万312社)では、生成AIを「活用している」と回答した企業は34.5%にとどまります。活用企業の86.7%が何らかの効果を実感している一方、活用に至っていない企業が課題として挙げるのは「専門人材・ノウハウ不足」が41.3%、「活用範囲の不明確さ」が40.0%と、いずれも上位です(参照:帝国データバンク「生成AIに関する企業の動向調査(2026年3月)」(2026年))。
方針は決めた、業務でも触ってはいる。しかし「活用している」と言い切れる状態にはまだ届いていない企業が多い、という2つの調査に共通する像が見えてきます。総務省の白書が挙げる日本企業の課題の1位も「効果的な活用方法がわからない」であり、帝国データバンクの調査が挙げる「専門人材・ノウハウ不足」と、根っこの部分で重なります。つまり、多くの企業が足踏みしているのは意欲の問題ではなく、方針を具体的な仕組みに落とし込む実装力の問題だということです。
この実装力の不足に気づいた企業が次に考えるのが、「自社にない実装力を、どう補うか」です。ここで大半の企業は、外部の会社に発注するか、自社で採用・育成するかの二択で検討を始めます。しかし、この二択のどちらを選んでも、思ったほどスムーズには進みません。
内製を選ぶ場合、最初にぶつかるのが人材の壁です。IPAが日本・米国・ドイツの企業を対象に実施した「DX動向2025」によれば、DXを推進する人材の「量」が「やや不足している」「大幅に不足している」と回答した日本企業は85.1%で、米国の23.8%、ドイツの44.6%と比べて突出して高くなっています。しかもこの数字は2022年度調査の83.5%、2023年度調査の85.7%とほぼ同水準で推移しており、単年の一時的な数字ではありません(参照:IPA「DX動向2025 日米独比較で探る成果創出の方向性」(2025年6月))。採用市場でAI人材の獲得競争が激化するなか、「まず人を採ってから始める」という内製の前提自体が、多くの企業にとって最初のボトルネックになっているのが実情です。
外注を選ぶ場合は、別の壁が立ちはだかります。要件を固めて発注し、納品を受けて検収するという従来型の外注のリズムは、仕様があらかじめ確定できる開発には向いています。しかし生成AIを使った業務実装は、動かしてみて初めて「この業務にはこの使い方が合う」「想定していた自動化の範囲は狭すぎた」といった発見が起きる領域です。仕様を先に固めることが難しい対象に、仕様を先に固める前提の契約を当てはめようとすると、要件定義のやり取りだけで時間が過ぎ、納品された頃には現場の業務がすでに変わっている、ということが起きやすくなります。加えて、外部にすべてを委ねた実装は、プロジェクトが終わった時点で知見も社外に出ていってしまい、次の改善を自社だけでは回せない状態が残りがちです。
実際に多いのは、最初のPoCまでは外部のベンダーやコンサルティング会社に依頼してうまく進むものの、そこから本番の業務プロセスに組み込む段階になって発注内容を1から仕切り直すというケースです。PoCの成果物はあくまで「動くことを確認するためのもの」であり、実際の業務データや例外処理、既存システムとの連携まで踏まえた実装とは前提が異なります。この段差に気づかないまま「PoCがうまくいったから、あとは横展開するだけ」と考えてしまうと、本番化の段階で想定外の追加発注が発生し、当初の見積もりから大きく膨らむことになります。
外注にも内製にも、それぞれ相応の理由と限界があります。ではどちらを選ぶべきか。ここから先は、外部の調査データではなく、Respectifyが実際の支援現場で企業のAI実装に伴走してきた経験に基づく、私たち独自の整理です。判断に迷ったときは、次の3つの軸で自社の状況を点検することをおすすめしています。
1つ目は、対象業務が変わり続けるか、一度作れば固定されるかという軸です。請求書のフォーマット変換のように仕様が固定的な業務は、外部に一括発注しても大きな問題は起きません。一方、営業資料の作成支援やコンテンツ制作のように、運用しながら使い方そのものが変化していく業務は、都度発注し直す外注のリズムとは相性が悪く、内製、あるいは内製に近い伴走型の支援のほうが向いています。
2つ目は、実装の知見を社内に残す必要があるかどうかという軸です。単発のツール導入であれば、外部にすべて任せて構いません。しかし、AI活用が今後も社内の複数の業務に広がっていくことを見込んでいるなら、最初の実装を通じて「自社の業務にどう当てはめるか」という考え方そのものを社内に蓄積しておく必要があります。総務省の白書に掲載された、先進的な取組を進める企業・有識者へのヒアリング調査でも、経営層はAIをコストではなく、ノウハウや知見が時間とともに蓄積し価値が向上していく資産として捉えるべきだという見解が示されています(参照:総務省「令和8年版情報通信白書(概要)」(2026年7月))。この資産化は、外部に投げきった実装では起こりません。
3つ目は、意思決定の往復にどれだけ時間をかけられるかという軸です。要件を綿密に固めてから動く進め方が許される案件もあれば、経営環境の変化が速く、走りながら優先順位を変えたい案件もあります。財務省の広報誌に掲載された分析でも、生成AIの導入効果が期待を大きく上回った企業ほど、業務プロセスの一部として正式に組み込むところまで踏み込んでいる傾向が示されています。要約や資料検索といった基本的な利用にとどまる企業と、業務そのものに生成AIを組み込む企業とでは、得られる効果に明確な差が出るということです(参照:財務省「ファイナンス」2025年8月号 コラム「生成AI導入はゴールではない」(2025年8月))。組み込みの深さを追求するほど、事前に仕様を固め切る進め方との相性は悪くなっていきます。
この3つの軸を並べると、多くの企業が「内製したいが人材がいない」「外注したいが知見が残らず、走りながら変える柔軟性もない」という板挟みに置かれていることが分かります。実はこの板挟みに対して、海外のテック企業を中心にすでに確立している型があります。Forward Deployed Engineer、略してFDEと呼ばれる働き方です(FDEとは何か、その成り立ちは別記事で詳しく解説しています)。
FDEは、外部の専門人材が顧客企業の現場に深く入り込み、業務の優先順位に沿って実装を進めながら、同時にその企業自身が使い続けられる形で仕組みを残していくという役割です。日本ではまだ馴染みが薄いため、「常駐SES」、つまり単に人を派遣してもらう契約と誤解されがちですが、本質はそこではありません。契約形態としての常駐の有無ではなく、現場の優先順位に合わせて成果物を作り続け、その過程で内製の型そのものを移転していく点に核心があります。
Respectifyでは、この伴走型の支援をRespectify STUDIOという形で提供しています。準委任・月額定額の契約とし、要件を固めて一括発注する前提を取りません。代わりに、毎週バックログの優先順位を確認し、動くものを届けながら次の優先順位を決め直していきます。外注のように知見が外に出ていくのではなく、内製のように最初から自前の人材を揃えるのでもなく、両方の強みを取りにいく設計です。特定の業務からスタートし、実装しながら自社の担当者にも進め方が伝わっていくため、支援が終わった後も社内で改善を続けられる状態を目指せます。
外注と内製のどちらが正しいかという議論に、唯一の正解はありません。仕様が固定的で単発の実装であれば外注が合理的ですし、AI活用を長期の経営基盤として位置づけ、十分な採用・育成の予算と時間を確保できるなら内製も有力な選択肢です。重要なのは、自社の対象業務がどちらの前提に近いかを、先に挙げた3つの軸で具体的に点検してから決めることです。
多くの企業がつまずくのは、この点検をせずに「とりあえず外に頼む」「とりあえず採用する」と決めてしまい、後になって業務の変化に追いつけない、あるいは人材が採用できず前に進まない、という壁に当たってからです。外注か内製かの二択で立ち止まっているなら、その中間にある伴走型の支援も選択肢に加えたうえで、自社の業務に照らして検討する価値があります。
この記事で紹介した第三の選択肢は、Respectify STUDIOとして提供しています。エンジニアを増やさずに、専属チームが毎週動くものを届ける準委任・月額定額のサービスです。自社の対象業務が外注と内製のどちらに近いか、あるいは伴走型の支援が合うのか。個別のご相談は無料相談へお気軽にどうぞ。