「生成AIを使える人は社内に増えてきた。でも、組織として成果が出ている実感がない」。BtoBのマーケティングや営業の現場で、こうした声が増えています。ツールの契約は済み、使い方の勉強会もやった。けれど、効率化の効果は一部の熱心な担当者にとどまり、チーム全体の生産性として説明できる数字にはなっていない。
この「個人は使えるのに、組織では定着しない」という現象は、感覚ではなく調査データにはっきり表れています。本記事では、BtoBマーケティング組織を対象にした国内調査と海外データを並べて、なぜ格差が生まれるのか、そして全社で定着させるには何が必要なのかを整理します。
個人の活用は7割、全社で日常化した組織は12.2%
支援会社の才流(サイル)が、BtoB商材のマーケティングに従事する600名を対象に2025年7月から8月にかけて実施した調査があります。まず個人レベルの活用率を見ると、生成AIを「日常的に活用している」が28.8%、「ときどき活用している」が41.7%でした。合わせて約7割が、程度の差はあれ業務で生成AIに触れていることになります。一方で「ほとんど使っていない」「まったく使っていない」は計29.5%でした(参照:PR TIMES「才流、BtoBマーケティングにおける生成AIの活用実態を調査」(2025))。
個人の数字だけを見れば、生成AIはかなり浸透しているように見えます。ところが、組織単位で見ると景色が変わります。同じ調査で、メンバーの80%以上が日常的に生成AIを活用している組織は、全体のわずか12.2%にとどまりました(参照:同上)。
つまり、個人で使いこなす人は珍しくなくなった一方で、それが「全社の当たり前」になっている組織はごく一部、という構造です。多くの組織では、一部の担当者が我流で使い、隣の席の人は使っていない。同じチームの中に活用の濃淡が混在している状態が標準なのです。
なお、この調査は生成AIの活用支援も手がける支援会社による自社調査である点には留意が必要です。調査対象もBtoBマーケティング従事者に限られています。数字の傾向を読む材料として扱い、自社の状況にそのまま当てはめずに参照してください。
「個人は使うが組織は追いつかない」は海外でも同じ構造
この格差は日本特有の現象ではありません。海外でも、ほぼ同じ構造が観測されています。
マイクロソフトとLinkedInが2024年に世界の知識労働者を対象に実施した調査では、職場で生成AIを使う人が75%に達していました。注目すべきは、そのAI利用者の約78%が「会社から支給されたものではなく、自分で持ち込んだツールを使っている」と回答していた点です(参照:Microsoft and LinkedIn「2024 Work Trend Index Annual Report」(2024))。組織の方針を待たず、個人が自前で使い始めている。才流の調査が示す日本の「個人先行・組織後追い」の構図と重なります。
経営層の側にも温度差があります。同じ調査で、リーダーの79%が「競争力を保つには自社もAIを取り入れる必要がある」と考えている一方、60%が「自社のリーダー層にAI導入の計画やビジョンが欠けている」ことを懸念していました(参照:同上)。必要性は理解しているのに、組織として動く道筋を描けていない。この「認識と実行の断絶」が、個人と全社のあいだに格差を生む土壌になっています。
価値の実現という観点でも同様です。ボストン コンサルティング グループが2024年に公表した調査では、AIに取り組む企業のうち、実際に大きな価値を生み出しスケールできているのは一部にすぎず、多くの企業が価値の実現と全社展開に苦戦していると報告されています(参照:BCG「AI Adoption in 2024」(2024))。導入と、組織として成果を出すことのあいだには、大きな隔たりがあるわけです。
国内外のデータを並べると、見えてくるのは一つの事実です。生成AIの活用は、個人のスキルの問題から、組織の設計の問題へと論点が移っている。日本でも、その構造は同じです。
格差を分けるのはツールではなくリーダーの推進
では、全社で定着している12.2%の組織と、そうでない組織を分けているものは何でしょうか。
才流の調査は、明確な相関を一つ示しています。経営層や組織長が生成AIの活用に前向きで、積極的に推進している組織ほど、メンバーの活用率が高いという関係です(参照:PR TIMES「才流、BtoBマーケティングにおける生成AIの活用実態を調査」(2025))。
これは直感的にも納得できます。生成AIを業務で本格的に使うには、入力していい情報の線引き、生成物のチェック手順、効果の測り方といった「使い方のルール」が要ります。これらは個人の裁量だけでは決められません。リーダーが「この業務でこう使う」「ここまでは任せ、ここから先は人が確認する」と方針を出して初めて、現場は迷わず使えるようになります。逆にリーダーが様子見のままだと、現場は責任を取れる範囲でしか踏み込めず、活用は個人の趣味の域を出ません。
成果の実感にも、この差は表れます。才流の調査では、生成AIによって外注費の削減を実感していると答えた割合が65.7%にのぼりました(参照:同上)。これまで外部に頼んでいたコンテンツ制作やリサーチの一部を内製化できた、という効果です。ただし、こうした効果を一部の担当者の手元で終わらせるか、組織のコスト構造の改善として説明できる水準まで広げるかは、まさにリーダーが定着をどこまで設計したかにかかっています。
ここで重要なのは、課題がツール選びではないという点です。どの生成AIを契約するかを比較する前に、「誰が・どの業務で・どこまで使い、どう確認するか」という運用の型を決めることのほうが、定着を大きく左右します。
我流の活用を、組織の型に変える
ここまでの整理を、二つの現場に引き寄せてみます。
一つは、グループ会社や子会社でデジタル化を任されている立場です。「うちもAIを使え」と経営や親会社から号令がかかる一方、セキュリティや統制の制約の中で、現場が本当に使える形をどう描くかに悩むケースです。このとき有効なのは、いきなり全社展開を狙うことではありません。活用が進む12.2%の組織がそうであるように、リーダーが推進の旗を立て、入力ルールと確認工程を定めた小さな運用から始め、効果を数字で示しながら横に広げる順番です。統制とのバランスを取りながら定着させる設計が、稟議でも説明しやすくなります。
もう一つは、少人数でマーケティングを回している立場です。一人で広告・サイト・メールマガジンを抱え、生成AIで効率化したいけれど我流になっている、という状況です。個人の生産性が上がるのは良いことですが、その使い方が頭の中だけにあると、属人化という別の問題に置き換わるだけです。プロンプトの型、生成物のチェック観点、使ってよい業務の範囲を簡単な手順書にまとめておくと、自分が止まっても回る仕組みに近づきます。これは才流調査が示す「組織としての定着」を、一人チームのスケールで実装することにほかなりません。
Respectifyでは、生成AIを個人の便利ツールで終わらせず、業務プロセスに組み込んで定着させる支援を行っています。どの業務に、どんなルールで適用するかを設計する具体的な進め方は、業務へのAI実装(AI Enablement)で整理しています。また、生成AIで効率化したマーケティング業務を、リード獲得から育成まで一貫した仕組みにつなげる観点はリード獲得・育成(Marketing Hub)で扱っています。
まとめ
生成AIをめぐる論点は、「個人が使えるかどうか」から「組織として定着させられるかどうか」へと移っています。個人の活用は7割に達しても、全社で日常活用が根づいた組織は12.2%にとどまり、その差を分けているのはツールではなくリーダーの推進でした。この構造は海外でも同じで、個人が自前のツールで先行する一方、組織の計画が追いついていない断絶が共通して観測されています。
裏を返せば、定着は再現できるということです。リーダーが方針を示し、入力ルールと確認工程を定め、効果を数字で語れる小さな運用から広げる。この順番を踏めば、我流の活用は組織の型に変わります。生成AIを誰が使えるかではなく、組織としてどう使うかを設計する段階に来ています。
自社の生成AI活用が個人止まりになっていると感じる方は、定着の進め方について無料相談でお聞かせください。