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買い手の95%はまだ市場にいない。BtoBの古典「95:5ルール」の正しい読み方。

買い手の95%はまだ市場にいない。BtoBの古典「95:5ルール」の正しい読み方。

展示会で集めた名刺にお礼メールを送っても、返ってくるのは「今は検討していません」ばかり。広告経由のリードも、商談になるのはごく一部。この状態を「施策の失敗」として報告すべきなのでしょうか。BtoBマーケティングには、この問いに構造から答える有名な考え方があります。豪エレンバーグ・バス研究所(Ehrenberg-Bass Institute)のジョン・ドーズ教授が2021年に発表した「95:5ルール」です。発表から5年が経ち、すでに古典と呼べる位置づけになりましたが、日本ではしばしば「調査で95%と判明した」と不正確に引用されます。本稿では原典に当たってこのルールの正しい中身を確認し、予算配分ではなく「計測の時間軸」をどう設計し直すかに絞って実務への落とし方を整理します。

95:5ルールとは何か。2021年に示された古典

95:5ルールの主張はシンプルです。ある時点において、BtoBの買い手のうち実際に「市場内」、つまり今まさに購買を検討している層は5%程度にすぎず、最大95%は市場の外にいる。だからマーケティングの大半は「今すぐ買わない相手」に届いている、というものです。

提唱したのはエレンバーグ・バス研究所のジョン・ドーズ教授で、論考は2021年にLinkedInのシンクタンク部門であるB2B Instituteとの協働で発表されました。エレンバーグ・バス研究所は南オーストラリア大学に置かれたマーケティングサイエンスの研究機関で、エビデンスベースのマーケティング研究では世界的に知られた存在です。(参照:John Dawes「The 95:5 rule」(2021)

背景には、BtoBの購買サイクルが長いという単純な事実があります。LinkedIn B2B Instituteの解説によると、企業の75%はコンピューターの購買が約4年に1度、80%は銀行サービスの見直しが約5年に1度です。買い替えのタイミングが数年に1度しか来ない商材であれば、任意の四半期に「ちょうど検討中」の企業が少数派になるのは当然の帰結です。(参照:LinkedIn B2B Institute「The 95-5 Rule」

95%は実測値ではない。本人が「概算則」と明言している

ここが本稿でいちばん強調したい点です。95%という数字は、大規模調査で測定された実測値ではありません。ドーズ教授自身が原典でこう書いています。

The 95% figure is not meant to be a precise rule. We're using it as a heuristic to get the idea across. (95%という数字は厳密なルールとして示したものではありません。考え方を伝えるための概算則として使っています。拙訳)

では何に基づく概算かというと、計算はごく単純で、ある期間に市場内にいる買い手の割合は「1÷平均購買間隔」で見積もれます。

  • 購買サイクルが5年の商材なら、市場内の買い手は年間で約20%、四半期では約5%。残りの約95%は市場外
  • 購買サイクルが2年の商材なら、年間で約50%、四半期では約13%。市場外は約87%

つまり「95:5」という比率そのものは購買サイクル5年を仮定したときの値であり、商材によって変わります。だからこそ実務では、ルールを暗記するのではなく、自社商材の平均的な買い替え・契約見直しの間隔から「うちの四半期の市場内比率は何%か」を自分で概算することに意味があります。仮に2年サイクルでも、目の前の四半期に検討中なのは1割強。「大半の買い手は今は買わない」という構造は揺るぎません。(参照:Ehrenberg-Bass Institute「Advertising effectiveness and the 95-5 rule」(2021)

なお、この論考はLinkedInとの協働で広まったため、広告媒体であるLinkedInにとって「長期のブランド広告が重要」という結論は商業的にも都合がよい、という利害関係は頭に置いておくべきです。ただし主張の核と計算根拠は、媒体社ではなく大学研究機関であるエレンバーグ・バスの研究者によるものです。一次の拠り所はそちらに置くのが妥当だと私たちは考えています。

これは予算の話ではなく、時間軸の話

95:5ルールはしばしば「ブランド広告に予算を寄せろ」という配分論として引用されますが、原典の中核はもう少し手前にあります。ドーズ教授の説明では、広告の大半は当面買わない買い手に当たるため、広告は主に「ブランドへの記憶のリンクを築き、更新すること」で効きます。買い手が数年後に市場内へ入った瞬間、その記憶が想起され、検討リストに載るかどうかを左右するという理屈です。

一方で、マーケターの側の期待はこれと大きくずれています。B2B Instituteが引く調査では、BtoBマーケターの96%が広告キャンペーンの主効果を2週間以内に確認できると期待していました。効果が現れる時間軸は年単位なのに、効果を測る時間軸は週単位。95:5ルールが突きつけているのは、この「計測の時間軸のずれ」です。

予算をどう守り、どう配分交渉するかという論点は、別記事「マーケ予算は売上比7.7%で頭打ち。増えない前提で価値を証明する優先順位」で扱いました。本稿では、時間軸のずれを前提にした計測と顧客管理の設計に絞ります。

日本のBtoB実務での使い方

ここからはRespectifyの実務視点です。従業員50〜200名規模の日本のBtoB企業を念頭に、報告と仕組みの2つに分けて整理します。

展示会名刺の大半が商談化しないのは構造であり、失敗ではない

展示会で200枚の名刺を集めて、すぐ商談になるのが数件。これは担当者の追客が下手だからではなく、概算則のとおりです。来場者の大半はそもそも市場外であり、四半期内に検討中の層が1割もいないのは構造的な前提です。

問題は、この前提を共有しないまま「今四半期の商談化数」だけで施策を評価すると、95%向けの投資が常にゼロ査定になることです。経営層や親会社への報告では、「即商談化した件数」と「将来の検討層として獲得できた接点数」を分けて示し、後者には「BtoBの買い手は任意の時点でその大半が市場外にいる、という研究機関の概算則がある」と出典付きで一文添える。それだけで、短期成果ゼロの施策を打ち切るかどうかの議論の質が変わります。

KPIを二層に分け、「今は買わない層」を捨てない

少人数のマーケティング体制で実装するなら、最低限は次の2つです。

1. KPIの二層化。市場内の5%向け(検索広告、比較コンテンツ、商談化数で評価)と、市場外の95%向け(事例発信、メールマガジン、想起や接点の維持で評価)を同じ表で測らない。前者は四半期、後者は半年から年単位で見る、と評価サイクル自体を分けます。 2. 「失注ではない未検討」を捨てない顧客管理。資料請求や名刺交換だけで終わった連絡先を「見込みなし」として放置せず、CRM(顧客管理システム)のライフサイクルステージで「今は市場外」の層として区別し、定期的な情報提供の対象として残します。数年後に市場内へ入った瞬間に想起される位置を取り続けることが、95:5ルールの実務的な結論だからです。

この二層のKPI設計や、市場外の層を育てる配信と記録の仕組みづくりは、私たちがリード獲得から育成・選別までの支援でご一緒している中心領域です。今は買わない層を育てる仕組みづくりと、CRMのライフサイクルステージ設計までをあわせて整えます。

まとめ

  • 95:5ルールは、エレンバーグ・バス研究所のジョン・ドーズ教授が2021年に発表した考え方で、ある時点で市場内にいるBtoBの買い手は5%程度、大半は市場外だと指摘します。発表から5年が経つ古典です。
  • 95%は調査による実測値ではなく、本人が明言する概算則です。「1÷平均購買間隔」で見積もり、購買サイクル5年なら四半期の市場内は約5%、2年なら約13%。自社の数字は自社のサイクルから概算します。
  • 中核の主張は時間軸にあります。広告はブランドへの記憶リンクを築いて数年単位で効くのに、BtoBマーケターの96%は2週間以内の効果を期待しているというずれです。
  • 実務では、展示会名刺の大半が即商談化しないことを構造として報告に織り込み、5%向けと95%向けでKPIと評価サイクルを二層に分け、「今は買わない層」をCRM上で捨てずに育てる設計に落とします。

短期のCV計測だけでは、95%に向けた投資は永遠に評価できません。自社の計測とKPIの時間軸をどう分けるか迷う場合は、無料相談からお気軽にご相談ください。

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