「広告にもサイトにもそれなりに投資しているのに、商談に入ってくる頃には、もう他社と比較し終えている」。そう感じることが増えていないでしょうか。B2Bの買い手は、検討の入り口で自社サイトを最初に開いてくれるとは限りません。ソフトウェアレビューサイトを運営するG2が2025年4月に約1,100名のB2B意思決定者を対象に実施した調査では、買い手がショートリスト(最終候補)を作るときに使う情報源として、レビューサイトと生成AIのチャットボットが、ベンダー自身のWebサイトを上回りました。本稿では、この情報源シェアの逆転を数字で押さえ、自社サイト外での露出をどう計測KPIに組み込むかを考えます。
ショートリストを作る情報源。自社サイトは3番手に下がった
まず数字を正確に押さえます。G2の2025年版調査によると、買い手がショートリストを形成する際に参照する情報源のシェアは、生成AIのチャットボットが17.1%、ソフトウェアレビューサイトが15.1%で、ベンダーの自社Webサイト12.8%を上回りました。これに調査会社(アナリスト)10.6%、同業の知人や仲間(ピア)8.9%、営業担当者8.8%が続きます。(参照:G2「2025 G2 Buyer Behavior Report」(2025)、Business Wire「G2 Releases 2025 Buyer Behavior Report」(2025))
この順位が示すのは、買い手が「比較検討の主導権を自分の側に持っている」という事実です。同じ調査では、買い手の約3分の2が「自分でリサーチを済ませてから営業チームと関わりたい」と回答しています(参照:G2「2025 G2 Buyer Behavior Report」(2025))。つまり、レビューやAIで候補を3社か4社に絞り終えたあとで、ようやく問い合わせや商談が発生します。営業が接触したときには、すでに勝負の大半が決している、ということです。
なお、この数字はあくまで2025年4月時点の約1,100名を対象とした調査によるものです。情報源シェアは年ごとに動きが大きく、特に生成AIの利用は急速に伸びている領域のため、最新の数字は調査年とともに確認する前提で読むのが安全です。本稿で扱うのは、各情報源の細かい数字そのものよりも、「自社サイトが情報源の3番手に下がった」という順位の逆転が起きているという構造の方です。
レビューとAIが上位に来る理由
なぜレビューサイトと生成AIが自社サイトを上回るのでしょうか。買い手の立場で考えると理由は単純です。自社サイトに書かれているのは「売り手が伝えたいこと」であり、買い手が知りたい「実際に使った人の評価」や「自社の課題に対する率直な向き不向き」は載っていません。レビューサイトには利用者の生の声があり、生成AIに尋ねれば複数の選択肢を横断的に比較した要約が即座に返ってきます。買い手が限られた時間で候補を絞るとき、まずこの2つに手が伸びるのは自然な流れです。
この背景には、買い手のレビュー観の変化もあります。別の調査会社TrustRadiusの「2024 B2B Buying Disconnect」では、買い手の多くがフェイクレビューの存在を意識しながらも、それでもレビューを購買判断の材料として使い続けている実態が示されています(参照:TrustRadius「2024 B2B Buying Disconnect」(2024))。レビューへの不信がありながらも参照をやめないのは、売り手の発信だけでは判断材料が足りないことの裏返しでもあります。
日本市場でこの逆転をどう読むか
ここからは、この海外調査を日本のB2Bマーケティングに引き寄せて考えます。注意したいのは、レビューサイトの普及度は日米で差があるという点です。米国ではG2やTrustRadiusのようなソフトウェアレビュー基盤が買い手の検討に深く組み込まれていますが、日本ではレビュー文化がそこまで成熟していない領域も多く、数字をそのまま当てはめることはできません。
それでも、構造そのものは日本にも当てはまります。日本のB2B買い手も、検索エンジンで課題語を調べ、同業の知人に評判を聞き、最近では生成AIに「自社の課題にはどんなツールが向くか」と尋ねるようになっています。自社サイトが検討の入り口でなくなり、第三者の場(レビュー、比較メディア、AIの回答)で候補に入れるかどうかが先に決まる。この順番は、レビュー文化の濃淡に関わらず共通しています。
ここに、多くのマーケティング施策の死角があります。広告費もサイト改修も、基本的には「自社サイトに人を集める」ことに向けて設計されています。ところが買い手は、自社サイトに来る前の段階で、自社サイト外の情報源を使ってもう候補を絞っているのです。集客の手前で勝負がついているのに、施策は集客の地点ばかりを見ている。これが、冒頭の「商談に入る頃には比較が終わっている」という感覚の正体です。
報告KPIに「自社サイト外の露出」を組み込む
では何を変えればよいのでしょうか。鍵は、計測する対象を「自社サイトに来た人」だけでなく「自社サイトに来る前の露出」まで広げることです。具体的には、次の2点を報告KPIに加えることを検討する価値があります。
- レビュー・第三者メディアでの露出: 自社が比較サイトやレビュー基盤、業界メディアの比較記事にどれだけ載っているか、レビュー件数や評価がどう推移しているか。
- 生成AIの回答への登場: 買い手が使いそうな質問(「○○の課題に向くツールは」など)を生成AIに投げたとき、自社が候補として挙がるか、挙がるとして正確に説明されているか。
これらは従来のアクセス解析には現れにくい指標です。だからこそ「広告のクリック数とサイトの問い合わせ数」だけを追っていると、検討の入り口での負けが見えません。経営層や親会社に施策の成果を報告する立場の方にとっては、「自社サイトに来る前の段階で、買い手の候補に入れているか」という問いを、報告の枠組みに足すこと自体が打ち手になります。
一人で広告・サイト・メルマガを回している少人数のマーケティング担当の方にとっては、優先順位の問題として読めます。広告の出稿量を増やす前に、まず自社が比較される第三者の場(レビュー、業界メディア、AIに拾われる情報)に、自社の正確な情報が置かれているか。ここが空白だと、どれだけ自社サイトを磨いても、買い手の検討の入り口に存在しないことになります。
自社サイトに求められる役割の変化
情報源の3番手に下がったとはいえ、自社サイトが不要になったわけではありません。役割が変わったと捉えるのが正確です。買い手はレビューやAIで候補を絞ったあと、最終確認のために必ず自社サイトを訪れます。このとき自社サイトに求められるのは、網羅的な機能一覧ではなく、「レビューやAIで得た印象を裏づける、信頼できる一次情報」です。
具体的には、価格や導入条件の透明性、課題ごとの向き不向きを率直に書いた説明、第三者が引用しやすい形に整理された自社の知見やデータといった要素が、最終確認の場での説得力を左右します。買い手が他社と比較し終えた状態で訪れることを前提に、自社サイトを「候補に残るための最後の一押し」として設計し直す視点が要ります。こうした検討段階の買い手を想定したサイト設計は、Webサイト・LP構築(Content Hub)の領域で具体化できます。
同時に、自社サイト外での露出を継続的に増やし、第三者の場で正確に語られる状態をつくる取り組みは、リード獲得の前段に位置づくマーケティング全体の設計に関わります。レビュー獲得の仕組み化や、AIに拾われやすい情報の整え方を含めて、リード獲得・育成の流れの中に組み込む進め方は、リード獲得・育成(Marketing Hub)で扱う範囲です。どこから手をつけるべきか整理したい場合は、無料相談で現状の情報源の露出状況から一緒に棚卸しできます。
まとめ
B2Bの買い手は、ショートリストを作る入り口で自社サイトを最初に開くとは限りません。G2の約1,100名を対象とした2025年調査では、生成AIのチャットボット17.1%とレビューサイト15.1%が、ベンダー自社サイト12.8%を上回り、買い手の約3分の2は自分でリサーチを済ませてから営業と関わりたいと回答しました。レビュー文化の濃淡には日米差がありますが、「自社サイトに来る前に、自社サイト外で候補が絞られる」という構造は日本にも共通します。広告とサイトの集客指標だけを追うのをやめ、レビュー・第三者メディアでの露出と、生成AIの回答への登場を報告KPIに足す。そして自社サイトを、比較し終えた買い手の最終確認に応える場として設計し直す。検討の入り口で候補に残るための優先順位の組み替えが、いま問われています。