「リードは取れているのに、商談化が伸びない」「広告のクリックは増えたのに、選定の俎上に最初から乗れていない」。BtoBマーケティングの現場で、こうした手応えの薄さを感じている方は少なくないはずです。問い合わせのフォームを送ってきた時点で、買い手の頭の中にはすでに本命の候補がいる。そんな経験を、おそらく多くの担当者が肌で感じています。
目次
この感覚を裏づける調査があります。海外のレビュープラットフォームTrustRadiusが営業コミュニティPavilionと実施した「2024 B2B Buying Disconnect」は、買い手の大半が商談に入るずっと前に候補を絞り終えている実態を、具体的な数字で示しました。本記事では、この調査をもとに、需要創出(デマンドジェネレーション)に偏りがちなマーケティング予算を、商談前の選定に入るための投資へどう組み直すかを考えます。
なお、この調査は買い手だけでなくベンダー側にも回答を求めた二者比較が特徴です。買い手2,164名(2024年3月実施)とソフトウェアベンダー243社(同4月実施)を対象にしており、「買い手の行動」と「ベンダーの予算配分」のズレを直接見られる点に価値があります。出典はレビュープラットフォーム運営企業による調査であるため、その属性を踏まえて読み解いていきます。
この調査でまず注目すべきは、買い手の78%が「リサーチを始める前から知っていた製品をショートリスト(最終候補)に入れた」と回答している点です。さらに大企業(エンタープライズ)に絞ると、その割合は86%にのぼります(参照:TrustRadius「2024 B2B Buying Disconnect: The Year of the Brand Crisis」(2024))。
つまり、買い手が情報収集を本格的に始めるその時点で、勝負の大半はついているということです。比較検討の入り口に立ったとき、買い手の手元にはすでに「名前を聞いたことがある製品」のリストがあり、調査はそのリストを検証する作業に近い。知られていない製品は、そもそも検討の対象にすら入りにくいわけです。
この傾向は、買い手が営業担当者と接触するタイミングが後ろ倒しになっている流れとも整合します。Gartnerの調査では、B2Bの買い手の61%が「営業担当者が介在しない購買体験(rep-freeな購買)」を好むと回答しています(参照:Gartner「Gartner Sales Survey Finds 61% of B2B Buyers Prefer a Rep-Free Buying Experience」(2025))。買い手は営業に会う前に、自分たちだけで情報を集めて候補を絞り込んでいます。営業が出ていける頃には、テーブルの上の選択肢はもう固まっているのです。
ここから導かれる示唆はシンプルです。営業の最初の商談に乗るかどうかは、商談のはるか手前で決まっている。リード獲得の数を追う前に、「そもそも買い手の候補リストに名前があるか」を問わなければなりません。
では、ベンダー側の予算配分はどうなっているのでしょうか。同じ調査のベンダー回答を見ると、裁量で動かせるマーケティング予算のうち、平均でブランド認知に38%、需要創出(デマンドジェネレーション)に53%が割かれていました(参照:TrustRadius「2024 B2B Buying Disconnect」(2024))。
需要創出とは、ここでは広告やメール、ウェビナーなど「いま問い合わせや商談を取りにいく」短期的な施策を指します。半分以上の予算がここに向いているということは、多くのベンダーが「目の前のリードを刈り取る」ことに重心を置いているという意味です。
ところが買い手の現実は、前章で見たとおり「知っていた製品をショートリストに入れる」というものでした。候補リストに入るのに必要なのは、調査が始まるよりずっと前から名前が認知されていること、つまりブランド認知への投資です。買い手の行動とベンダーの予算配分は、この点でかみ合っていません。報告書がこのズレを「ディスコネクト(断絶)」と呼ぶのは、この構造を指しています。
この数字を日本の現場にそのまま当てはめるには注意が必要です。これはベンダー(売り手企業)の自己申告に基づく海外の調査であり、業界や企業規模によって配分は大きく変わります。とはいえ「短期の刈り取り施策に予算が寄り、長期の認知づくりが後回しになる」という傾向自体は、限られた予算で成果を求められる日本の少人数マーケティング組織にも、強く心当たりのある構造ではないでしょうか。
事前認知づくりが重要だとして、では買い手はどこで製品の名前を知るのでしょうか。ここで効いてくるのが、第三者の情報源です。
別の調査になりますが、レビュープラットフォームG2の「2025 Buyer Behavior Report」では、B2Bの意思決定者がショートリストをつくる際に参照する情報源として、生成AIのチャットボットやレビューサイトが、ベンダー自身の公式サイトを上回るシェアを占めるという結果が出ています(参照:G2「2025 G2 Buyer Behavior Report」(2025))。買い手は、ベンダーが用意した自社サイトよりも先に、第三者の評価や横断的な情報源で候補をふるいにかけているのです。
ここで効いてくるのが、レビューの信頼性という論点です。先のTrustRadiusの調査では、買い手の73%が「フェイクレビューを定期的に、あるいはときどき目にする」と感じていると回答しています(参照:TrustRadius「2024 B2B Buying Disconnect」(2024))。買い手は第三者情報を頼りにしつつ、その信頼性を疑ってもいる。だからこそ、実名・具体的な利用文脈を伴う説得力のあるレビューが、候補入りの分かれ目になります。
同じ調査では、かつて定番だったアナリストレポートの利用が16%まで下がり、過去7年で最も低い水準になったことも示されています(参照:TrustRadius「2024 B2B Buying Disconnect」(2024))。権威ある第三者レポートに頼っていた認知の入り口が、レビューや実際の利用者の声、そして生成AIへと移りつつあるということです。事前認知づくりは、もはや広告出稿だけの話ではありません。買い手が選定に使う場所に、実態を伴った情報を置けているかが問われています。
もう一つ、買い手が候補を絞る局面で効くのが、価格情報の出し方です。TrustRadiusの調査では、エンタープライズの買い手の51%が「ベンダーに透明な価格提示をしてほしい」と望んでいることが分かりました(参照:TrustRadius「2024 B2B Buying Disconnect」(2024))。この51%は大企業層に絞った数字であり、買い手全体の傾向としてではなく、エンタープライズ特有の要望として読む必要があります。
価格を問い合わせないと分からない状態は、営業に会いたがらない買い手にとっては候補から外す理由になりえます。価格の目安すら掲げていない製品は、自分だけで比較を進めたい買い手のショートリストから静かに落ちていく。透明な価格提示は、商談前の選定段階で「候補に残る」ための条件の一つになっているのです。
日本の商習慣では、BtoBの価格は個別見積もりが一般的で、サイト上に価格を明示する文化は海外ほど浸透していません。すべてを公開する必要はありませんが、「想定レンジ」「料金体系の考え方」「最小構成の目安」といった判断材料を、買い手が自分で調べられる場所に置いておくことは、検討の入り口で脱落しないための現実的な一手です。
ここまでの調査結果を、実務の意思決定にどうつなげるか。Respectifyが支援の現場で重視しているのは、「事前認知づくりを、後から説明できる形で予算に組み込む」という視点です。
需要創出に偏った予算を見直すとき、多くの組織がつまずくのは「ブランド認知は成果が見えにくく、社内で説明しづらい」という壁です。広告のクリック数やフォーム送信数のように、すぐに数字で示せる施策に予算が寄ってしまうのは、説明責任という制約から見ればむしろ自然なことです。だからこそ、認知づくりの効果を、商談の入り口に立てたかどうかという観点で計測できる仕組みが要ります。
たとえば、商談化した案件が「最初にどこで自社を知ったか」を記録し、レビューサイトや指名検索、第三者経由の流入と商談の関係を可視化していく。フォーム獲得数だけでなく、「最初から候補に入っていた割合」を追える状態をつくれば、認知づくりへの投資が報告できる指標に変わります。少人数のマーケティング組織であれば、広告のROIが見えないまま予算を守る交渉に苦しむのではなく、レビュー獲得や透明な価格提示によって「商談前の選定に入る」という別の打ち手を持てるようになります。
こうした計測の土台づくりと、リード獲得から育成、商談化までの一連の動線設計については、Respectifyのマーケティング支援(Marketing Hub)で具体的にご相談いただけます。自社の予算配分や計測の現状を整理したい場合は、無料相談もご利用ください。
「2024 B2B Buying Disconnect」が突きつけたのは、買い手はリサーチを始める前にもう候補を決めており(78%、エンタープライズでは86%)、ベンダーの予算はそれを取りにいく前段ではなく目先の刈り取り(需要創出53%)に寄っている、という構造的なズレでした。
商談化が伸びないとき、リード獲得の量をさらに増やすのは一つの答えですが、それだけでは買い手の候補リストに最初から入る問題は解けません。買い手が候補を絞る場所、つまりレビューや第三者の情報源、自分で確かめられる価格情報に、実態を伴った情報を置けているか。そして、その認知づくりの効果を「商談の入り口に立てたか」という観点で報告できる形に落とせているか。この二点を、需要創出への投資と並べて見直すことが、予算の組み直しの出発点になります。買い手がすでに決めているなら、こちらは買い手が決める前から、選ばれる場所に立っておく必要があるのです。