動画を作ってサイトやSNSに載せているのに、再生はされても問い合わせや商談につながっている実感がない。本数だけは増えていくのに、成果のほうは横ばい。こうした手応えのなさを抱えるマーケティング担当の方は少なくありません。
目次
その背景を裏づける調査があります。動画ホスティングを提供するWistia社が、専門家1,300名超への調査と自社プラットフォーム上の1億本を超える動画の分析をまとめた「State of Video Report」です。ここから読み取れるのは、動画が「作る」ことに偏りすぎていて、「届ける」設計が後回しになっているという構図です。(参照:Wistia「State of Video Report」)
ひとつ前提を添えておきます。この数字はWistiaの顧客が中心の集計で、もともと動画活用に積極的な企業に偏っています。日本の一般的なBtoB企業の現状よりも、動画運用が一歩進んだ層の傾向だと割り引いて読む必要があります。それでも、本数を増やす方向の努力が頭打ちになりつつあるという示唆は、日本のマーケティング現場にもそのまま当てはまります。
まず押さえたいのが、動画のエンゲージメント(最後まで見られているか、どこまで再生されたか)が下がり続けているという事実です。同レポートによれば、2024年の動画エンゲージメント率は前年比で7%低下しました。視聴者は以前よりも動画を最後まで見なくなっています。(参照:Wistia「State of Video Report」)
低下は長さによって差があります。5分未満の動画の平均エンゲージメントは47%で、これも前年比10%低下しています。5分から30分の動画は38%、30分を超える動画は21%まで下がります。長い動画ほど離脱が早く、短い動画でさえ平均で半分強までしか見られていないという現実です。
ここで誤解しやすいのは、「短くすれば見てもらえる」という単純な結論です。短尺でも平均47%しか見られていない以上、長さを削るだけでは足りません。問われているのは、限られた視聴時間の中で、伝えたいことが冒頭に置かれているか、そして見てほしい人にきちんと届いているかです。後者の「届ける」部分が、多くの現場で抜け落ちています。
このレポートでもっとも示唆的なのが、制作と宣伝のあいだにある時間配分の偏りです。調査では、回答者の43%が週に1本以上の動画を制作しており、57%が動画予算を増やす意向を持っていました。動画を「作る」方向への投資は明らかに増えています。(参照:Wistia「State of Video Report」)
ところが、作った動画の宣伝に多くの時間を割いていると答えたのは28%にとどまります。作ることには熱心でも、広めることは後回しになっている。この非対称が、本数が増えても成果が伸びない構図の正体です。
少人数のマーケティングチームを想像すると、この偏りは起こるべくして起こります。動画は企画から撮影、編集まで工数が見えやすく、「1本作った」という達成感が残ります。一方で配信設計は地味で、効果も見えにくいため、つい後回しにされます。結果として、せっかく作った動画がサイトの奥深くに1本ぽつんと埋まり、ほとんど誰にも届かないまま次の制作に取りかかる、という循環に陥ります。
制作は工数が見えるから前に進む。配信は工数が見えにくいから後回しになる。この見えやすさの差が、動画投資の成果を静かに削っています。
制作偏重の傾向は、AIの使われ方にも表れています。同レポートでは、41%が動画制作にAIを活用しており、その用途でもっとも多いのは字幕の生成で61%でした。AIは主に、動画を「作る」工程の効率化に投入されています。(参照:Wistia「State of Video Report」)
字幕の自動生成は実務的に価値があります。音声をオフにして視聴する人への対応にもなりますし、検索エンジンやAIに内容を理解させる手がかりにもなります。ただ、ここでもAIの貢献が「作る」側に寄っている点は見逃せません。本来であれば、どのページのどの位置に動画を置くか、誰にいつ配信するかといった「届ける」工程の最適化にも、AIや自動化の余地は大きいはずです。
業務へのAI活用を考えるなら、制作の効率化と並行して、配信や計測の自動化まで視野に入れたい。私たちが業務へのAI実装の支援で重視しているのも、目立つ制作工程だけでなく、見えにくい運用工程をどう仕組みに変えるかという視点です。
では、後回しになりがちな「届ける」を、少人数でも回せる形にどう落とすか。配信設計を3つの工程に分けて考えると、手をつける順番が見えてきます。
動画を最初に置くべきは、SNSのタイムラインではなく、見込み客が意思決定のために訪れる自社のページです。サービス紹介ページ、料金ページ、導入事例ページのファーストビュー付近に動画を埋め込めば、すでに関心を持って訪れた人に対して、文章より速く要点を伝えられます。SNSへの拡散は再生数を稼ぎますが、行動につながる視聴はむしろ自社サイト上で起きます。
実装の観点では、動画を「どこに置いたか」と「そこで何が起きたか」を後から計測できる状態にしておくことが前提になります。再生数だけでなく、視聴後に問い合わせフォームへ進んだか、料金ページに移ったかまで追えてはじめて、動画が成果に効いているかを判断できます。サイト構築の段階で計測まで含めて設計しておくと、この土台が整います。
5分未満でも平均47%しか見られていない以上、伝えたい結論は冒頭の数十秒に置くのが鉄則です。長い説明を順を追って積み上げる構成は、離脱とともに要点ごと失われます。「何の動画で、見ると何が分かるのか」を最初に提示し、詳細は後半に回す。視聴が途中で切れても、伝えたいことの核は届く構成にします。
新しく作った動画を、過去に資料をダウンロードした人や展示会で名刺交換した人へ、メールで届ける導線を持っているかどうかで成果は大きく変わります。すでに接点のある相手は、初めて広告で出会う人よりも視聴と次の行動のハードルが低いからです。動画を作るたびに、保有リストへの配信をワンセットで設計しておくと、1本あたりの到達が積み上がっていきます。
この保有リストへの配信や、視聴行動に応じた次のアプローチの自動化は、リード獲得から育成までの支援で扱う領域です。動画を作る工数の一部を、こうした配信設計に振り向けるだけでも、同じ本数からより多くの成果を引き出せます。
最後に、評価指標の置き方を見直すことをおすすめします。制作偏重が起こる根本には、「今月何本作ったか」を成果の代わりに見てしまう習慣があります。本数は工数の指標であって、成果の指標ではありません。
本数の代わりに見るべきは、次のような「届いたか・動いたか」の指標です。
これらは制作本数のように一目で増えていく数字ではありませんが、動画が事業に貢献しているかを正しく映します。経営層や上長に「動画を何本作りました」ではなく「動画を見た人の何割が次の行動に進みました」と報告できれば、予算を守る根拠としても格段に強くなります。
Wistiaの調査が示すのは、動画のエンゲージメントが前年比7%低下し、短尺ですら平均47%しか見られていないなかで、宣伝に時間を割く企業は28%にとどまるという、制作偏重の構図です。本数を増やしても成果が伸びないのは、努力が「作る」側に偏り、「届ける」設計が後回しになっているからです。
打ち手はシンプルです。制作の工数の一部を、配置(どこに置くか)、尺(冒頭で要点を出す)、配信(保有リストに届ける)という届ける設計に振り向けること。そして評価指標を本数から到達と行動へ移すこと。少人数のチームでも、この順番で見直せば、同じ制作量からより多くの成果を引き出せます。
動画の配置と計測を含むサイト構築から、保有リストへの配信設計までをどう組むか迷う段階であれば、動画の配置と計測を含むサイト構築の支援を入り口に、無料相談からお声がけください。