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商談が増えないMQL偏重の見直し|買い手グループ連携|Respectify

作成者: 杉江 昂|Jun 15, 2026 4:11:04 PM

マーケティングは目標どおりのリード数を営業に渡している。それなのに、商談は増えない。営業からは「質が低い」と言われ、マーケからは「追ってくれていない」と返す。月次の報告会のたびに繰り返されるこのすれ違いは、多くのBtoB企業で「人の問題」や「連携不足」として片付けられてきました。しかし近年の調査研究が示すのは、もっと根の深い構造です。マーケが数えている単位(個人のリード)と、実際に購買が進む単位(組織のグループ)が、そもそも噛み合っていないのです。本稿では、Forresterの調査と企業事例をもとにこのずれの正体を整理し、日本のBtoB企業が現実的に移行を進めるための手順を考えます。

目次

  1. MQLの数は達成しているのに、商談が増えない
  2. 購買の実態は個人ではなくグループ
  3. Palo Alto Networksが試した買い手グループ単位の運用
  4. 日本の稟議文化は、実は買い手グループ型と相性がいい
  5. MQLを捨てない段階的移行の進め方
  6. まとめ

MQLの数は達成しているのに、商談が増えない

多くのBtoBマーケティングは、MQL(Marketing Qualified Lead。資料ダウンロードやセミナー参加などの行動から、マーケティング部門が「見込みあり」と判定した個人のリード)を中心に回っています。月のMQL目標を立て、達成数を報告し、営業に引き渡す。この運用自体は、リード管理の標準形として長く機能してきました。

問題は、MQLが「個人」を数える指標だという点にあります。資料をダウンロードしたのは1人でも、その人が所属する会社で購買を決めるのは1人ではありません。Forresterは2023年のブログで、B2Bの買い手の93%が2人以上で構成される買い手グループの一員として購買に参加していると指摘し、単一の個人を追跡する従来のリード管理では購買の複雑さに対応できないと論じています。(参照:Forrester「The Verdict Is In: It's Buying Groups For The Win」(2025)

つまり「リードは渡しているのに商談にならない」とき、起きているのは多くの場合こういうことです。マーケが渡した1人は確かに関心を持っている。しかしその1人は、購買を決める集団のごく一部でしかない。営業がその1人にアプローチしても、背後にいる残りの関与者が見えていなければ、商談は組織の中で前に進みません。個人単位の指標で成果を測り続ける限り、このずれは数字に表れず、両部門の不満だけが積み上がります。

購買の実態は個人ではなくグループ

このずれの大きさは、調査データで確認できます。Forresterが2024年12月に発表した調査レポート「The State Of Business Buying, 2024」によると、企業の購買決定には平均13人が関与し、購買の89%は2つ以上の部署をまたいで進みます。さらに、B2B購買の86%が購買プロセスの途中で停滞を経験するとされています。(参照:Forrester「The State Of Business Buying, 2024」(2024)

Forresterはこの「購買決定に関わる複数の関与者の集まり」を買い手グループ(Buying Group)と呼びます。グループの中には、最終的な意思決定者、社内で導入を推進する人、評価に影響を与える人、予算を承認する人、実際に使う人といった異なる役割が混在し、それぞれ関心も懸念も異なります。

ここで先ほどの「86%が停滞する」という数字を思い出してください。平均13人の関与者がいて、部署をまたいだ合意形成が必要なら、停滞はむしろ自然な帰結です。そして売り手側がその13人のうち1人しか見えていなければ、停滞の理由を知ることも、解消を働きかけることもできません。リードから商談への接続が切れる場所は、マーケと営業の「間」ではなく、買い手組織の中の見えない部分にあるのです。

Palo Alto Networksが試した買い手グループ単位の運用

この構造に正面から取り組んだ企業事例として、Forresterはセキュリティ大手Palo Alto Networksのクライアントストーリーを公開しています。同社は大量の個人リードが売上につながらない課題を受けて、個人のMQLを追う運用から、複数の関与者を持つ商談機会に焦点を当てる運用へ転換しました。

Forresterの公開情報によると、パイロット(試験導入)段階では、複数の関与者が紐づいた商談はそうでない商談に比べてパイプラインを進む可能性が8倍高く、勝率は2倍になったとされています。その後、取り組みを全社にスケールさせた段階での公式な数字は、クローズ率(受注率)の17%向上です。パイロットの「2倍」とスケール後の「17%向上」は段階の異なる数字であり、混同しないよう注意が必要です。(参照:Forrester「Palo Alto Networks: Buying Groups(クライアントストーリー)」

また、これはあくまで1社の事例です。同社はForresterの継続的な支援を受けて専任チームで移行を進めており、同じ成果がどの企業でも再現される保証はありません。それでも、「個人を数える」から「グループを束ねる」への転換が実際の受注率に効きうることを示す事例として、参照する価値は十分にあります。

日本の稟議文化は、実は買い手グループ型と相性がいい

ここからはRespectifyの視点です。買い手グループという考え方は海外発ですが、私たちは日本のBtoB商習慣にこそなじみやすいと考えています。

日本企業の購買は、もともと個人で完結しません。稟議書が複数の階層を回り、情報システム・現場・管理部門・経営と、評価軸の異なる部署が合議して決める。Forresterが「平均13人」と数字で示した購買の姿は、日本のBtoB企業にとっては日常の風景です。つまり日本の売り手は、買い手グループ型の購買に対峙してきた経験をすでに持っています。足りていないのは経験ではなく、それをデータとして扱う仕組みの方です。

展示会で集めた名刺、セミナーの参加者、問い合わせフォームの履歴。日本のBtoB企業には個人単位のデータが豊富に溜まっています。しかしそれらが「同じ会社の、同じ検討案件の関与者」として束ねられているケースはまれです。営業担当者の頭の中では「あの会社は部長が乗り気で、情シスが慎重」と関与者の地図が描けているのに、CRM上では資料をダウンロードした1人のリードしか見えない。この落差を埋めることが、リードから商談への接続を立て直す本丸になります。

なお、海外ではこの文脈で「MQLの廃止」が語られることがありますが、日本の組織でいきなりMQLという報告指標を捨てるのは現実的ではありません。MQL数は経営層や親会社への報告に組み込まれており、指標の急な変更はマーケティング部門の成果説明をかえって難しくします。私たちが提案するのは、MQLの報告を残したまま、商談側に関与者を束ねる運用を足していく段階的な移行です。(参照:Forrester「Saying Goodbye To MQLs: What's The Big Deal About Getting Rid Of MQLs?」(2023)

MQLを捨てない段階的移行の進め方

従業員50〜300名規模のBtoB企業を想定し、現在のCRM/SFA運用に追加する形で3ステップに整理します。特定のツールに依存しない一般的な考え方として書きますが、主要なCRMであればいずれも標準機能の範囲で実現できます。

ステップ1:商談に関与者を束ねて記録する

最初の一歩は、商談(取引)レコードに複数のコンタクトを関連付ける運用の徹底です。多くのCRMでは、商談に紐づくコンタクトが「最初に問い合わせた1人」だけになりがちです。商談化した案件については、打ち合わせに同席した人、メールのCCに入っている人、稟議に関わると分かっている人を、役割(決裁者・推進者・利用者など)とあわせて商談に紐づけるルールを決めます。

着手の目安として、まず直近の受注・失注それぞれ10件を見返し、商談に紐づくコンタクトが1人しか記録されていない案件の比率を数えてみてください。この比率が高いほど、買い手側の実態とデータの落差が大きいことになります。Palo Alto Networksの事例で「複数の関与者が紐づいた商談は進展の可能性が8倍」とされたことを踏まえると、ここはコストをかけずに改善余地を確かめられる場所です。商談に関与者をどう束ね、役割ごとにパイプラインを管理するかは、商談に関与者を束ねる営業最適化の支援でも中心的に扱っているテーマです。

ステップ2:商談接続率をKPIに併記する

次に、報告指標に「商談接続率」を加えます。MQL数の報告はそのまま残し、その横に「渡したMQLのうち、商談に紐づいた割合」と「商談あたりの記録済み関与者数」を併記する形です。指標を置き換えるのではなく併記から始めるのは、過去の報告との連続性を保ち、社内の合意を取りやすくするためです。

数か月分のデータが溜まると、「MQLは目標達成、しかし商談接続率は低い」のか、「接続はしているが関与者1人の商談ばかりで停滞している」のか、ボトルネックの位置が言葉ではなく数字で特定できるようになります。マーケと営業の議論も「質が低い」「追っていない」の応酬から、「どの会社の、どの関与者が埋まっていないか」という具体論に変わります。

ステップ3:上長への報告を「数」から「接続」へ動かす

最後に、上長や経営層への報告の重心を段階的に移します。いきなり「MQLは意味がない」と切り出すのは得策ではありません。おすすめは、Forresterの調査(購買には平均13人が関与し、89%が複数部署をまたぐ)を判断材料として添えたうえで、「個人単位の数に加えて、商談への接続を測り始めた」と実績ベースで報告することです。第三者の調査データと自社の数字が揃えば、稟議や親会社向けの説明にも耐える材料になります。

報告の最終形は、「今月のMQLは何件」ではなく「今月、商談に接続したリードは何件で、受注にどうつながったか」です。マーケティングの成果を商談・売上の言葉で語れるようになることは、予算を確保し、施策の自由度を広げるうえでも効いてきます。リード獲得から育成・選別、そして商談接続までの計測設計は、リード獲得から商談につなげる仕組みづくりでご相談いただけます。

まとめ

  • 「リードは渡しているのに商談にならない」原因の多くは、個人単位のMQLと、グループで進む購買実態とのずれにあります。
  • Forresterの調査では、B2Bの購買決定には平均13人が関与し、89%が複数部署をまたぎ、86%が途中で停滞するとされています。
  • Palo Alto Networksの事例(1社事例)では、買い手グループ単位の運用への転換により、パイロット段階で勝率2倍、全社展開後にクローズ率17%向上が報告されています。
  • 稟議と合議で購買が進む日本のBtoB企業にとって、買い手グループの考え方はむしろなじみやすいものです。MQLを廃止するのではなく、商談への関与者の束ね、商談接続率の併記、報告の重心移動という順で段階的に移行することを推奨します。

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