「eセールスマネージャーを使い続けるべきか、HubSpotに乗り換えるべきか」。この相談は、私たちが受けるHubSpot関連の問い合わせの中でも決して少なくありません。相談してくるのは、eセールスマネージャーを何年も運用してきた会社がほとんどです。導入実績6,000社を超える国産SFAの代表的な製品であり(参照:ソフトブレーン「esm(eセールスマネージャー)」(2026年8月時点))、日報文化に根ざした営業管理の型として、現場に定着している会社が多いという背景があります。それでも乗り換えの相談が来るのは、営業の外側にある課題、たとえばマーケティングとの連携やWebサイト経由のリード獲得が、既存の仕組みだけでは解けなくなってきたからです。
目次
本稿では、eセールスマネージャーとHubSpotという設計思想の異なる2つの製品を、どちらが優れているかという話ではなく、公式情報にもとづいて中立に比較します。そのうえで、私たちが実際の相談から見てきた「乗り換えを検討すべきサイン」と「とどまるべきケース」の判断軸、そして乗り換えを決めた後につまずきやすい移行実務の注意点を整理します。なお本稿の料金は2026年8月時点で各社公式サイトに掲載されている情報にもとづいており、最新の正式な数字は両社の公式ページでご確認ください。
eセールスマネージャーは、日本企業の営業現場を起点に育ってきたSFA/CRMです。対象は製造業、情報通信業、サービス業、金融・保険業、建設・不動産業、小売・卸売業など幅広い業種にわたり、企業規模も100人未満から5,000人以上まで対応すると公式に案内されています(参照:ソフトブレーン「esm(eセールスマネージャー)」(2026年8月時点))。
これに対してHubSpotは、無料のCRMを土台に、マーケティング・営業・カスタマーサービスの機能を1つのプラットフォーム上に統合するという発想で作られています。無料版でもコンタクト管理、取引パイプライン、CRMデータのインポートといった基本機能が使え、ここに有償のSales HubやMarketing Hubを組み合わせて機能を拡張していく構成です(参照:HubSpot「無料のCRMソフトウェア」(2026年8月時点))。営業支援の機能はeセールスマネージャーと重なる部分も多いのですが、Webサイトのフォーム、広告、メール配信といったマーケティング側の機能と、最初から同じデータ基盤の上でつながっている点が、設計思想として大きく異なります。
つまり、eセールスマネージャーは営業の実務を支えることに深く最適化された道具であり、HubSpotはマーケティングから営業、カスタマーサービスまでを1つの基盤でつなぐことを前提にした道具です。どちらが優れているかという話ではなく、自社が今どちらの課題に強く直面しているかで、見るべきポイントは変わってきます。
料金の作りそのものにも、設計思想の違いが表れています。まず、それぞれの公式価格を確認します。
eセールスマネージャー(esm)の料金プランは4段階に分かれており、いずれも最少5名からの契約です。ベーシックが月額3,500円(税別)/ユーザー(5〜30名向け)、プロフェッショナルが月額6,000円(税別)/ユーザー、エンタープライズが月額12,500円(税別)/ユーザー、アンリミテッドが月額25,000円(税別)/ユーザーとなっています。クラウドの利用容量は1ユーザーあたり5GB/月で、超過分は10GBごとに月額1,000円が加算されます。初期費用については公式サイトに明記がありません(参照:ソフトブレーン「esm(eセールスマネージャー) 料金プラン」(2026年8月時点))。
HubSpotのSales Hubは、無料プラン(2ユーザーまで)を除くと3段階です。Starterは月払いで月額2,400円/シート(年払いなら月額840円/シート)、Professionalは月払いで月額12,000円/シート(年払いなら月額10,800円/シート)に加え、導入支援費用18万円が別途必須です。Enterpriseは月額18,000円/シート〜(最低利用料金。年払い・月払いの別は公式サイトに明記がなく要問い合わせ)で、導入支援費用42万円が必須となります(参照:HubSpot「Sales Hubの料金」(2026年8月時点))。
この2つを並べると、料金構造の違いが見えてきます。eセールスマネージャーはプラン単価がそのまま月額に直結するシンプルな構造で、初期費用の記載がなく見積もりの起点が読みやすい一方、機能を積み増すほど1ユーザーあたりの単価が大きく上がっていきます(ベーシックとアンリミテッドで約7倍の開きがあります)。HubSpotのSales Hubは、下位プランのシート単価だけを見ると割安に映りますが、Professional以上では導入支援費用が必須で、これを初年度コストに含めて考える必要があります。単純な月額の比較ではなく、自社が必要とする機能のレンジがどのプランに収まるか、そして初年度に一括で発生する費用まで含めた総額で比較することが欠かせません。HubSpotの料金構造そのものをさらに詳しく知りたい方は、姉妹記事「HubSpotは「安く始めたつもり」がなぜ膨らむのか」で、エディション・連絡先課金・席数の掛け算の仕組みを整理しています。
ここからは、私たちが実際に受けてきた乗り換え相談から見えてきた判断軸を、自社の支援経験に基づく目安として紹介します。これは外部の調査データではなく、あくまでRespectifyが伴走してきた実務での傾向であることを前提に読んでください。
乗り換えを検討したほうがよいサインとして、まず挙げられるのが、マーケティングとの連携が経営課題として浮上している場合です。展示会や紹介に頼っていた新規開拓が頭打ちになり、Webサイト経由のリード獲得や、獲得したリードの育成(ナーチャリング)を本格的に仕組み化したいという要請が経営層から出てきたとき、営業管理に特化したツールの延長で対応しようとすると、外部のMAツールとの連携設定や、営業とマーケティングでシステムが分断されたままの二重運用に悩まされがちです。もう1つのサインは、営業以外の部門、たとえばカスタマーサービスやWeb制作までを含めて、顧客に関する情報を1つの基盤に統合したいという要請が強まっている場合です。この場合、営業支援に特化した製品を積み増していくより、最初から複数機能が同じデータ基盤でつながっている製品のほうが、後からの連携コストを抑えられます。
一方で、とどまったほうがよいケースもはっきりしています。1つは、訪問営業や電話営業を中心とした国内の営業スタイルにすでに深く最適化されており、現場の定着が進んでいる場合です。eセールスマネージャーは定着率(利用継続率)95%を公式に掲げており(参照:ソフトブレーン「よくあるご質問」(2026年8月時点))、日報文化に根ざした運用がすでに現場に馴染んでいる組織にとって、この定着資産を手放すコストは決して小さくありません。もう1つは、マーケティングとの統合ニーズがまだ顕在化しておらず、当面は営業管理の精度向上だけを求めている場合です。この段階で乗り換えても、HubSpot側のマーケティング機能を使いこなせず、単に慣れたツールを手放すだけの結果になりかねません。乗り換えの是非は、現在の営業管理の不満だけでなく、今後1〜2年でマーケティングや他部門との統合ニーズがどこまで顕在化しそうかという見立てとセットで判断するべきというのが、私たちの実務上の結論です。
乗り換えを決めた後、実際に多くの会社がつまずくのが、データ移行と現場の定着という2つの実務です。ここから先は、私たちが実際の移行支援の現場で見てきた傾向であり、両社の公式資料に明記された仕様ではなく、Respectifyの実務経験に基づく見方であることを前提に読んでください。
データ移行でまず起きるのが、案件ステータスの定義のずれです。eセールスマネージャーの商談管理・案件管理は、各社が日本の営業プロセスに合わせて独自に運用ルールを積み重ねてきた領域であり、これをHubSpotの取引パイプラインのステージへそのまま1対1で移し替えられるとは限らない、というのが私たちの実務上の実感です。表面上似た名前のステータスがあっても、何をもってそのフェーズに進んだと判定するかの定義が異なれば、移行直後からパイプラインの数字に歪みが出ます。もう1つが、活動履歴やタイムラインの構造の違いです。日報や商談メモの蓄積方法がツールごとに異なるため、単純なCSVエクスポート・インポートだけでは、誰が・いつ・何をしたかという文脈情報が欠落しやすく、移行後に「過去の商談履歴が追えない」という不満につながります。名刺交換で蓄積してきた人脈情報も同様で、フィールドの粒度をあらかじめ設計してから移行する必要があります。データ移行そのものに固有の落とし穴については、姉妹記事「ツールを乗り換えても、データの汚れはついてくる」で、クレンジングと識別子設計の組み立て方を詳しく扱っています。
定着の面では、日報文化からパイプライン文化への移行そのものが、現場にとって小さくないハードルになります。eセールスマネージャーの高い定着率(前述のとおり公式には95%)は、長年にわたり日本の営業現場の入力習慣に馴染んできた結果だというのが私たちの見立てであり、HubSpotに乗り換えた瞬間にその習慣がそのまま引き継がれるわけではありません。画面の作りも入力の型も変わるため、移行直後は入力の手間が一時的に増えたと感じる現場が出てきがちです。ここで教育や運用設計を後回しにすると、ツールだけ変わって現場の入力率が落ち、せっかく統合したはずのデータがかえって荒くなるという事態になりかねません。移行プロジェクトを計画する段階から、データ移行の設計と現場教育の設計を、システム選定と同じ重みで扱うことが、乗り換えを成功させる分かれ目になります。
自社の営業がいまどの段階にあり、乗り換えるべきタイミングなのか、あるいはまだ早いのか。この見極めには、現在の運用実態と、今後1〜2年で見込まれる事業の変化の両方を踏まえた個別の検討が必要です。乗り換えの是非そのものから相談したいという方は、無料相談からお気軽にお問い合わせください。