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HubSpotのMarketing/Sales/Service Hub、結局どこから始めるべきか。

作成者: 杉江 昂|Jun 22, 2026 4:02:12 PM

「HubSpotを入れることにした」という相談を受けたとき、最初の論点はたいてい「どのプランにするか」になります。けれども本当に決めるべきはプランの前に、自社のどの業務をHubSpotに載せるのか、つまりどのHubから始めるのかです。HubSpotは現在、マーケティング・営業・カスタマーサービス・コンテンツ・データ管理・収益管理という役割の違う複数のHubが、共通のCRMを土台に重なる構成になっています(参照:HubSpot「HubSpot Products」(2026)※同社はHubSpotの提供元)。全部を一度に有効化することもできますが、その入れ方こそが「ツールは入れたのに使われていない」状態を生む典型的な原因です。本稿では、海外の調査データを手がかりに、自社の一番の出血点からどのHubを最初に選ぶか、そして無料CRMを土台にどう段階導入するかを整理します。

目次

  1. ツールを増やすほど活用率が下がるという逆説
  2. 「どのHubか」ではなく「いまの出血点はどこか」から逆算する
  3. 無料CRMを土台に、有料化は1つだけから始める
  4. ツールを足すほど分断するという別の落とし穴
  5. Data HubとRevenue Hubは「後から効く土台系」
  6. まとめ

ツールを増やすほど活用率が下がるという逆説

まず押さえたいのは、ツールは足すほど成果が出るとは限らないという現実です。調査会社Gartnerが2022年に公表したマーケティングテクノロジー調査(マーケター324名対象)では、企業が保有するmartech(マーケティング技術)スタックのうち、実際に活用されている機能はわずか42%にとどまりました。2020年の58%から大きく低下しています。活用を妨げる要因の上位は、ツールの機能重複が30%、それを使いこなす人材の不足が28%、そして仕組みの複雑さが27%でした(参照:Chief Marketer「Gartner Survey: Marketers Leverage Just 42 Percent of Their Martech Stack's Capabilities」(2022))。

この低下傾向はその後も続いています。Gartnerの続報を報じた専門メディアMarTechによれば、活用率は2023年に33%へさらに下がり、一方でmartechへの支出は2020年比で35%増加していました(参照:MarTech「Marketers are only using one-third of their stack's capability」(2023))。年によって数字に幅はありますが、おおむね4〜5割前後で推移し、しかも下がり続けているというのが大づかみの傾向です。買う機能は増えているのに、使われる割合は減っている。これがツール導入の不都合な実態です。

少人数のチームほど、この問題は深刻になります。機能が多いツールを複数並べても、それを設定し、運用し、データを見て改善できる人手がなければ、ライセンス費だけが積み上がります。HubSpotのように1つのプラットフォームに複数のHubが乗る製品は、だからこそ「全部入れる」よりも「使う1つから入れる」ほうが活用率を保ちやすいと言えます。

「どのHubか」ではなく「いまの出血点はどこか」から逆算する

次に、選び方の起点です。HubSpotのどのHubを選ぶかという問いは、自社のどの業務で一番血が流れているかという問いに置き換えると、判断がはっきりします。役割の対応はおおむね次のように整理できます(参照:HubSpot「HubSpot Products」(2026))。

  • 新規リードが足りない、獲得した見込み客を放置している: Marketing Hub(マーケティング自動化・フォーム・メール配信・流入分析)
  • 取引の状況が見えない、案件管理が担当者の頭の中にある: Sales Hub(パイプライン管理・取引記録・営業活動の可視化)
  • 問い合わせ対応が属人化している、解約や離脱の予兆を拾えない: Service Hub(問い合わせ管理・カスタマーサポート)

ここで効いてくるのが、先ほどのGartnerの数字です。活用率が下がる最大の要因が機能重複と人材不足であるなら、課題が漠然としたまま複数Hubを一度に立ち上げるのは、まさにその落とし穴に自ら入る行為になります。逆に、いま最も困っている業務を1つ特定し、そのHubだけを本気で立ち上げれば、限られた人手を1か所に集中でき、活用率も維持しやすくなります。

実務でこの逆算を確実にするコツは、「困っている」を感覚ではなく数字で言い直すことです。たとえばリードが足りないなら月間の新規問い合わせ件数、取引が見えないなら更新が止まっている案件の割合、解約が課題なら直近半年の解約率。最初に有料化するHubは、この数字が最も悪い領域に充てるのが筋の通った決め方です。

無料CRMを土台に、有料化は1つだけから始める

HubSpotの段階導入を可能にしているのが、無料CRMの存在です。HubSpotは無期限・無料で使えるCRMを提供しており、各Hubはこの単一の顧客プラットフォームを共通の土台として共有します(参照:HubSpot「HubSpot CRM」(2026))。つまり、まず無料CRMに顧客・取引先・取引のデータを集約しておき、課題が最も深いHubだけを段階的に有料化していく、という入り方ができます。

この順番には実利があります。無料CRMの段階で会社・担当者・取引の情報を一元化しておけば、後からどのHubを有効化しても、同じデータの上で機能が立ち上がります。先にデータの置き場を1つに決めてから機能を足すので、ツールごとに顧客台帳が分裂する事態を避けられます。逆に、各部門がそれぞれ別のツールを契約してから後で統合しようとすると、データの突き合わせに膨大な手間がかかります。

具体的な進め方としては、次の3ステップが現実的です。

  1. 無料CRMに顧客・取引データを集約する: まず1つの台帳に寄せ、どの情報がどこにあるかを揃える
  2. 一番の出血点のHubを1つだけ有料化する: リード不足ならMarketing、取引不可視ならSalesというように課題から1つに絞る
  3. そのHubが現場に定着してから次を検討する: 運用が回り、数字が改善し始めてから2つ目を足す

なお、無料CRMで管理できるコンタクト数の上限はプランや時期によって表示が変わるため、ここでは具体的な数字を断定しません。最新の条件は導入を検討する時点でHubSpot公式を確認するのが確実です。大切なのは、いきなり全Hubの有料契約を結ぶのではなく、無料の土台を先に固めてから1つずつ判断するという順番のほうです。

無料CRMを土台に「どのHubから着手し、どの順で広げるか」を自社の課題と数字に合わせて設計する作業は、RespectifyのHubSpotオンボーディング支援で中心的に扱っているテーマの一つです。プラン選定の前に、まず載せる業務の順番から一緒に決めていくのが、使われ続けるHubSpotにする近道だと考えています。

ツールを足すほど分断するという別の落とし穴

ここからはRespectifyの実務視点です。Hubを1つに絞ることをおすすめする背景には、「ツールを足すほど業務が分断する」という、Gartnerの数字とは別の角度の問題があります。

クラウド管理プラットフォームを提供するBetterCloudが2024年に公表した調査では、企業が利用するSaaS(クラウドサービス)の数は平均106個に達していました。さらに、ツール統合に取り組む動機の63%が「使われていない、あるいは低活用のアプリが予算を圧迫しているから」でした(参照:BetterCloud「The State of SaaS」(2024))。先のGartner調査が示した機能重複30%という障壁と合わせて読むと、構図がはっきりします。多くの企業は、ツールが足りないのではなく、入れたツールを使い切れず重複させているのです。

日本の少人数のBtoB企業でも、メール配信は配信ツール、取引管理は表計算、問い合わせ対応は別のサービス、というように業務ごとにツールが散らばっている現場は珍しくありません。それぞれは安価でも、データが各ツールに分かれることで「メールを開いた人が取引になり受注したか」を追えなくなる。この分断こそが、活用率を下げる根本原因です。HubSpotのように複数の業務を1つのプラットフォームに寄せる設計は、ツールを足す方向ではなく、散らばった業務を1か所に集約する方向の打ち手として価値があります。だからこそ、その集約を「全Hub同時」ではなく「1つずつ」進めることが、分断を増やさない条件になります。すでにツールが乱立している状態を点検したい場合は、別稿「使われないMAツールを棚卸しする」もあわせてご覧ください。

Data HubとRevenue Hubは「後から効く土台系」

最後に、残る2つのHubの位置づけを共有します。HubSpotには現在、上記3つに加えてData Hub(旧Operations Hub)とRevenue Hub(旧Commerce Hub)があります。名称が刷新されているため、旧名で記憶している方は読み替えが必要です。

Data Hubは、複数システム間のデータ連携やデータ品質の整備を担う領域です。Revenue Hubは、見積もり(CPQ)・請求・決済といった収益まわりの管理を担います(参照:HubSpot「HubSpot Products」(2026))。この2つは、Marketing/Sales/Serviceのように「いますぐの出血を止める」種類のHubというより、データと収益の土台を整える後から効くHubと捉えるのが実態に合っています。

導入順としては、まず課題の深いフロント側のHub(Marketing/Sales/Service)で業務をHubSpotに載せ、データがある程度たまってから、整備や連携のニーズに応じてData HubやRevenue Hubを検討するのが自然です。最初からデータ連携の完璧さを目指して土台系から入ると、肝心の業務がまだ載っていないために効果を実感しづらく、活用率の低下を招きます。名称が変わっても、「フロントの課題を先に、土台の整備は後に」という優先順位は変わりません。

まとめ

  • Gartner調査では、保有するmartechスタックの活用機能は2022年で42%、2023年には33%まで低下する一方、支出は2020年比で35%増。買う機能は増えても使われる割合は下がっており、活用を妨げる要因の上位は機能重複30%と人材不足28%でした。
  • HubSpotのどのHubを選ぶかは、自社のどの業務で一番血が流れているかから逆算するのが確実です。リード不足ならMarketing、取引不可視ならSales、解約・問い合わせ過多ならServiceというように、課題から1つを特定します。
  • 無料・無期限のCRMを土台にデータを集約し、最も出血している1つのHubだけを先に有料化する段階導入が、限られた人手を集中させ活用率を保つ現実的な順番です。
  • BetterCloud調査では平均SaaS数は106個、統合動機の63%が未活用アプリの予算圧迫でした。ツールは足すほど分断します。HubSpotは集約の打ち手として使い、その集約も1つずつ進めるのが分断を増やさない条件です。
  • Data Hub(旧Operations Hub)とRevenue Hub(旧Commerce Hub)は、データと収益の土台を整える後から効くHub。フロントの課題を先に解き、土台の整備は後に回すのが自然な順番です。

HubSpotで失敗する典型は、機能の多さに引かれて全Hubを一度に契約し、結局どれも使い切れずに終わるパターンです。出発点はプランの比較ではなく、自社の一番の出血点を1つ特定することにあります。どのHubから始めるべきか自社の課題に当てはめて相談したい場合は、無料相談からお気軽にお寄せください。