「あの人だから任せている」。長く付き合いのある取引先から、担当営業についてこう言われることがあります。一方で、別の営業が同じ商材を扱っても、なかなか次の取引につながらない。この差は、人柄や相性だけの問題なのでしょうか。
パーソル総合研究所が2025年11月に公表した「営業実態調査2025」は、この問いに一つの手がかりを与えてくれます。顧客・営業・人事管理職のそれぞれ1,000名、合計3,000名に対して2025年9月に実施された調査で、「選ばれ続ける営業」が何を顧客に提供しているのかが、具体的なデータとして見えてきます(参照:パーソル総合研究所「営業実態調査2025」(2025))。本記事では、その結果を起点に、属人的に見える「選ばれる力」を組織の仕組みに変えていく道筋を整理します。
「示唆を受けた経験」が顧客の期待を分ける
調査が注目するのは、顧客が営業に何を期待しているかという点です。営業に高度な関係構築を期待する顧客層では、営業担当者から「示唆を受けた経験」が「よくある」「ある」を合わせて約6割にのぼりました。これは、それ以外の顧客層と比べて約2割多い水準です(参照:パーソル総合研究所「営業実態調査2025」(2025))。
ここでの「示唆」とは、顧客がまだ気づいていない課題や、検討の前提を見直すきっかけを営業側から提示することを指します。単に要望を聞いて見積もりを出すのではなく、顧客の状況を踏まえて「こういう論点もあるのではないか」と投げかける関わり方です。
そして同じ調査では、この高度な関係構築営業を期待する顧客層では、1回だけで終わる取引が少なく、5回以上の取引継続が6割を占めることも示されています(参照:パーソル総合研究所「営業実態調査2025」(2025))。示唆を受けた経験と、長く続く取引関係が、同じ顧客層の中で重なっているわけです。
この調査はパーソル総合研究所による国内3,000名を対象とした単独調査であり、商談化率や受注率といった成約の生データを示すものではありません。あくまで「顧客がどう感じ、どんな関係が続いているか」を捉えた実態調査として読む必要があります。
なぜ「示唆」が効くのか。買い手の自走という背景
示唆を提供できる営業が選ばれ続ける背景には、買い手の行動が変わってきているという事情があります。
海外の調査ですが、Gartnerは、B2Bの買い手の61%が営業担当者と接しない「rep-free」な購買体験を好むという結果を公表しています(参照:Gartner「Gartner Sales Survey Finds 61% of B2B Buyers Prefer a Rep-Free Buying Experience」(2025))。買い手は自分で情報を集め、比較し、ある程度まで検討を進めてから営業と接触する。営業に「説明してもらう」必要性が下がっているのです。
これは一見すると営業不要論のように見えますが、実態はもう少し複雑です。同じくGartnerは、B2Bの購買チームの74%が、意思決定の過程で不健全な対立を経験していると報告しています(参照:Gartner「Gartner Sales Survey Finds 74% of B2B Buyer Teams Demonstrate Unhealthy Conflict During the Decision Process」(2025))。社内の関係者が増え、それぞれの立場や前提がぶつかり、買い手自身が「何を基準に決めればいいか」で迷っている。
これらは米国を中心とした海外データであり、稟議文化が根強い日本企業にそのまま当てはまるわけではありません。それでも方向性は共通しています。自分で調べ尽くした買い手ほど、社内の合意形成や論点整理で行き詰まりやすい。だからこそ、検討の前提を整理し、見落としている論点を提示してくれる営業の「示唆」に価値が出る。パーソル総研が示した「示唆を受けた経験と取引継続の重なり」は、この構図の国内版として読むことができます。
「示唆型営業」は属人なのか、仕組みにできるのか
ここで多くの企業が直面するのが、「示唆を出せる営業は、結局ベテランの個人技ではないか」という壁です。長年の経験で顧客の業界事情を理解し、過去の事例を引き出して的確な論点を投げかける。たしかにそれは一朝一夕には身につきません。
パーソル総研の調査も、結論として「現場のマネジメント力の強化」が急務だとしています。影響が大きい一方で、現状では対応が後回しになりやすい領域だという指摘です(参照:パーソル総合研究所「営業実態調査2025」(2025))。つまり、優れた営業を個人として称えるだけでは組織は変わらず、現場のマネジメントを通じて再現していく必要がある、ということです。
ここからは、私たちが営業の仕組み化を支援する中で見えてきた視点を加えます。示唆を出す力は、分解すると次の3つの要素に支えられています。
- 顧客の状況や過去のやり取りを正確に把握していること
- 似た課題に対して、過去にどんな論点が有効だったかを知っていること
- そのうえで、いま目の前の顧客に合った問いを立てられること
このうち最初の2つは、本来は個人の記憶に依存させる必要がありません。顧客との接点・商談で出た論点・提案の経緯がCRM(顧客情報や案件を一元管理する仕組み)に残っていれば、誰が担当を引き継いでも、過去の文脈を踏まえた示唆を組み立てられます。3つ目の「問いを立てる」部分は人の力が残りますが、土台となる情報が揃っているかどうかで、その質は大きく変わります。
グループ会社・子会社で起きる「示唆の消失」
従業員50〜200名規模のBtoB企業や、大手グループの販売子会社では、ベテラン営業の定年や異動のたびに、この「示唆の土台」が失われていきます。顧客の事情も、過去にうまくいった提案の論点も、担当者の頭の中にしかない。引き継ぎ資料には連絡先と直近の取引額しか書かれていない、という状況は珍しくありません。
親会社や経営層に営業活動を報告する立場の方にとって、これは二重の課題です。属人化したまま人が抜ければ取引継続のリスクになり、同時に「なぜその顧客と長く続いているのか」を数字や記録で説明できない。選ばれ続けている理由が個人に閉じていると、組織の資産として評価も再投資もできないのです。
解決の順番としては、まず顧客との接点と商談の論点を記録する場所を一本化し、誰が見ても過去の文脈をたどれる状態をつくることが起点になります。営業活動の可視化やパイプライン管理の整え方については、営業最適化・パイプライン管理(Sales Hub)で具体的な進め方を紹介しています。
少人数チームでも「型」にできる
一方、マーケティングや営業を少人数で兼務している中堅企業では、そもそも「示唆を出すための情報」を集める時間が足りない、という形で同じ課題が現れます。一人で複数の顧客を追いかけ、提案のたびにゼロから論点を考えていては、鋭い仮説提示を毎回続けるのは困難です。
この場合に効くのは、属人的なひらめきに頼らず、示唆を「型」にしておくことです。たとえば、自社が支援してきた顧客に共通する課題のパターンと、それぞれに有効だった論点をいくつか整理しておく。商談前にその型と顧客の状況を照らし合わせれば、少人数でも一定水準の示唆を安定して出せます。経験の差を、記録と型で埋めていく発想です。
まとめ
パーソル総研の調査が示したのは、選ばれ続ける営業が顧客に提供しているのは値引きや御用聞きではなく、検討の前提を見直す「示唆」だという構図でした。示唆を受けた経験は、高度な関係構築を期待する顧客層で約6割と、他層より約2割多く、その層では5回以上の取引継続が6割を占めます。買い手が自分で調べて自走する時代だからこそ、論点を整理してくれる営業の価値が高まっている、と海外データも同じ方向を指しています。
重要なのは、この「示唆を出す力」を一部のベテランの個人技で終わらせないことです。顧客の文脈と過去に効いた論点を記録として残し、現場のマネジメントを通じて再現する。そうして初めて、選ばれ続ける理由が組織の資産になります。属人営業の引き継ぎや、営業活動の可視化に課題を感じている場合は、無料相談で自社の状況に合った進め方を整理するところから始めてみてください。