「渡したリードを営業が追ってくれない」「マーケから来るリードは質が低い」。この応酬は、多くのBtoB企業の月次会議で繰り返されています。原因として持ち出されるのはたいてい連携不足や温度差ですが、もっと手前に見落とされがちな問題があります。そもそも両部門が「有効なリード」という言葉で、別々のものを思い浮かべている、という事態です。Gartnerが営業責任者を対象に行った調査では、この食い違いがはっきり数字に表れていました。本稿では、リードが放置される根っこにある「定義のズレ」を取り上げ、MQLとSQLの定義をCRM上で1枚に揃えるための現実的な手順を整理します。
営業責任者の半数が「定義がずれている」と答えた
まず調査の中身を確認します。Gartnerが最高営業責任者(CSO)およびシニアな営業リーダー243名を対象に2024年11月から12月にかけて実施した調査によると、49%が「有効リード(qualified lead)の定義が、自社のマーケティング部門の定義と大きく異なる」と回答しました。営業を率いる立場の人のおよそ半数が、リードという最も基本的な言葉について、隣のマーケティング部門とは別の物差しを持っていると認めているわけです。(参照:Gartner「Gartner Survey Reveals Less Than Half of CSOs Report Their Organization Met Several 2024 Strategic Goals」(2025)、BusinessWire(ミラー記事))
ここで一点、混同しやすい数字に注意が必要です。マーケティング関連の調査では「マーテック(マーケティングツール群)の機能活用率は49%」という別の数字がよく語られますが、これは今回の「リード定義のズレ49%」とは主題のまったく異なる調査です。偶然、割合が同じになっているだけで、片方はツールの使われ方、もう片方は言葉の定義の話です。記事や社内資料で引用する際は取り違えないようにしてください。
なお、この調査は米国を中心とした営業責任者243名が対象で、回答者は比較的規模の大きい企業に偏ります。数字をそのまま日本の中堅・中小企業に当てはめるのは慎重であるべきですが、「営業とマーケがリードの定義を共有できていない」という構造そのものは、規模や国を問わず広く見られるものです。日本の現場では、定義が文書化されていないぶん、ズレがさらに見えにくくなっているとも言えます。
「有効リード」という言葉が指すものは、立場で変わる
なぜ同じ社内で、リードの定義がこれほどずれるのでしょうか。背景には、マーケティングと営業が見ている「成果の単位」の違いがあります。
マーケティング部門にとっての有効リードは、多くの場合MQL(Marketing Qualified Lead)です。これは、資料ダウンロードやセミナー参加、特定ページの閲覧といった行動から、マーケティング側が「見込みあり」と判定した個人を指します。判定の基準は、行動の量やスコアの合計値であることが多く、その人がいま本当に買う気があるか、予算や決裁権を持っているかまでは問わないのが一般的です。
一方、営業部門にとっての有効リードは、SQL(Sales Qualified Lead)に近いものです。実際に商談として前に進められる相手、つまり課題が具体的で、予算の見込みがあり、話を聞いてくれる窓口がある相手を指します。営業からすれば「資料を1本ダウンロードしただけの人」は、まだ有効リードではありません。
この二つの基準は、本来は引き継ぎのルールで橋渡しされるべきものです。ところが多くの企業では、MQLからSQLへ渡す際の条件が言葉で決められておらず、それぞれの部門が自分の都合のよい定義で「有効」を判断しています。マーケは行動量で合格にし、営業は商談確度で不合格にする。同じリードが、渡す側では「有効」、受け取る側では「無効」と評価される。Gartnerの調査が示した49%という数字は、この橋が架かっていない状態の広がりを表しています。
定義のズレが、リード放置という結果になる
定義がずれていると、現場では具体的に何が起きるのか。最も典型的なのが、リードの放置です。
マーケティングが目標どおりの数のMQLを営業に渡しても、営業がそれを「自分の基準では有効でない」と見なせば、優先順位は下がります。明確に拒否されるわけではなく、忙しい商談の合間に静かに後回しにされ、やがて誰も触れなくなる。マーケから見れば「せっかく渡したのに追ってくれない」、営業から見れば「追う価値のないリードばかり来る」。どちらも嘘をついているわけではなく、同じ事実を別の定義で見ているだけです。
さらに厄介なのは、この状態では改善の議論が空回りすることです。「リードの質を上げよう」と話し合っても、質の良し悪しを測る共通の物差しがないため、結論が出ません。マーケは「行動スコアの高いリードを増やした」と報告し、営業は「やっぱり商談にならない」と返す。指標が共有されていない限り、この議論は何度繰り返しても着地しません。リードが放置される問題は、担当者の熱意や連携の頻度ではなく、定義という土台の不在から生まれているのです。
定義を「1枚」に固定する
ここからはRespectifyの実務視点です。この問題への打ち手はシンプルで、MQLとSQLの定義を1枚の合意文書に落とし、CRM上の同じ場所で全員が参照できるようにすることです。難しいツールも高度な分析も要りません。要は、言葉の意味を社内で一つに固定する作業です。
私たちが支援の現場で重視しているのは、定義を「人の頭の中」ではなく「システムの中」に置くことです。リードの定義が前任のマーケ担当者や営業マネージャーの経験則として個人に紐づいていると、その人が異動・退職した瞬間に定義が消えます。日本の中堅企業では、これが実際によく起きます。前任者が去ったあと、なぜそのスコアリング条件なのか、なぜそのリードを商談化したのか、誰も説明できなくなる。定義をCRMの設定とドキュメントに固定しておけば、人が入れ替わっても基準は残ります。MQLとSQLの定義をCRM上で揃え、引き継ぎに耐える形で固定する作業は、MQL/SQLの定義をCRMで揃える営業最適化の支援で中心的に扱っているテーマです。
明日から始める、定義合わせの手順
従業員50〜300名規模のBtoB企業を想定し、現在のCRM/MA運用に追加する形で4ステップに整理します。特定のツールに依存しない一般的な考え方として書きますが、主要なCRMであれば標準機能の範囲で実現できます。
ステップ1:直近の商談で「ズレの実物」を見る
最初にやるべきは、抽象論ではなく実物の確認です。直近で営業が「これは追う価値がない」と判断したリードを5件、逆に「これは良かった」と評価したリードを5件、マーケと営業が一緒に見返します。何が両者を分けたのかを言葉にすると、暗黙の判断基準が表に出てきます。「役職が現場担当だと商談にならない」「特定の業界からの問い合わせは確度が高い」といった、これまで誰も明文化してこなかった条件が見えてくるはずです。
ステップ2:MQLとSQLの境界条件を文章にする
次に、ステップ1で出た判断基準をもとに、MQLとSQLそれぞれの「合格条件」を箇条書きで言語化します。完璧を目指す必要はありません。最初は「資料ダウンロード2回以上、または問い合わせフォーム送信でMQL」「課題が具体的で、予算時期の見込みがあり、決裁者または決裁に近い人と接点があればSQL」程度の粗さで十分です。重要なのは、マーケと営業の双方がその場で合意し、両方が署名できる一つの文章にすることです。どちらか一方が作って通達する形にすると、定義はまた分裂します。
ステップ3:定義をCRMの項目とビューに落とす
合意した条件を、CRM上のステータス項目や必須入力項目として実装します。たとえばリードのステージにMQLとSQLを明示的に設け、SQLへ進めるときには「予算時期」「決裁関与者」といった項目の入力を必須にする、といった形です。こうすると、定義が単なる紙の合意ではなく、日々の入力動作の中に組み込まれます。営業が感覚で商談化するのではなく、合意した条件を満たしたものだけがSQLになる。定義がシステムの動作として固定されることで、人による解釈のブレが減ります。
ステップ4:「定義の見直し会」を四半期に一度持つ
定義は一度決めて終わりではありません。市場や商材が変われば、有効リードの条件も変わります。四半期に一度、MQLからSQLへの転換率や、SQLからの受注率を見ながら、定義が現実と合っているかを確認する場を持ちます。「MQLは増えているのにSQLに進まない」なら基準が甘すぎるかもしれず、「SQLにしたのに受注しない」なら境界条件に抜けがあるのかもしれません。数字を見ながら定義を調整する習慣がつくと、リードの議論が感情論から外れていきます。この転換率や受注率を測れる状態をつくるところまでは、リード獲得から育成・選別までの仕組みづくりの領域として、別の記事でも順次扱っていきます。
まとめ
- Gartnerの調査では、営業責任者の49%が「有効リードの定義がマーケティング部門と大きく異なる」と回答しています(CSO/シニア営業243名、2024年11〜12月実施、米国中心)。
- よく語られる「マーテック活用率49%」とは割合が同じだけの別主題であり、取り違えに注意が必要です。
- マーケはMQL(行動量で判定する個人)、営業はSQL(商談に進められる相手)を「有効リード」と呼んでおり、橋渡しの条件が言葉で決まっていないとリードは静かに放置されます。
- 打ち手は、MQLとSQLの定義を双方合意の1枚に落とし、CRMの項目とビューに固定すること。実物確認、文章化、CRM実装、四半期の見直しの順で進めます。
- 定義を人の頭ではなくシステムに置けば、担当者が入れ替わっても基準は残ります。
自社の営業とマーケが、リードという言葉で同じものを見られているか。一度すり合わせてみたい方は、無料相談からお気軽にお声がけください。