来期の予算策定で「広告費を増やしたい」と切り出したら、「今の予算の成果をまず説明してほしい」と返された。マーケティングの現場では珍しくないやり取りですが、これは日本の中堅企業に限った話ではないようです。Gartnerが2025年5月に公表した「2025 CMO Spend Survey」によると、マーケティング予算は企業売上比7.7%で前年から横ばい。CMO(最高マーケティング責任者)の59%が、自社の戦略を実行するには予算が不足していると答えています。米国の大企業ですら、予算は増えていません。本稿ではこの調査を「予算は増えない前提」のベンチマークとして読み解き、日本の中堅BtoB企業が限られた予算の価値を証明するための優先順位を整理します。
目次
まず調査の中身を確認します。Gartnerの2025 CMO Spend Surveyは、2025年2月から3月にかけて、北米・英国・欧州のCMOおよびマーケティング幹部402名を対象に実施されました。結果は、マーケティング予算が企業売上に占める割合は平均7.7%。前年の調査と同じ水準で、Gartnerはこれを「頭打ち(flatlined)」と表現しています。
そして59%のCMOが、現在の予算では自社の戦略を十分に実行できないと回答しました。予算は増えないのに、やるべきことは増えている。半数以上のマーケティング責任者が、その板挟みを自覚していることになります。(参照:Gartner「2025 CMO Spend Survey Reveals Marketing Budgets Have Flatlined at 7.7% of Overall Company Revenue」(2025))
数字を読むうえで重要な注記があります。この調査の回答者の大半は、年間売上10億ドル(日本円でおよそ1,500億円)を超える企業に属しています。つまり7.7%という比率も59%という危機感も、基本的には欧米の大企業の話です。日本の中堅企業がこの数字をそのまま自社の予算目安に使うことはできません。
それでもこの調査に価値があるのは、「資金力のある大企業ですら、マーケティング予算はもう増えていない」という事実が確認できるからです。予算が増えないのは自社の交渉力不足だけが原因ではなく、マーケティングという機能全体が「支出の正当性を問われるフェーズ」に入っている。そう読むのが、この調査の正しい使い方だと私たちは考えています。マーケティング予算をどう管理し配分するかという論点は、Gartner自身も継続的なテーマとして扱っています。(参照:Gartner「Marketing Budget: Strategic Cost Management」)
同調査では、CMOがどこを削ろうとしているかも示されています。39%が代理店・外部パートナーへの支出の削減を予定し、39%が人件費の削減を計画していると回答しました。
この2つの数字は、削減の優先順位を物語っています。広告媒体費のように「成果が数字で見える支出」より先に、外注費や体制のように「成果との結びつきを説明しにくい支出」から削られているのです。逆に言えば、予算が増えない時代に削減対象になるのは、成果が出ていない施策とは限りません。成果を説明できない施策です。
ここに、この調査が日本の実務者に示す最大の教訓があります。施策の良し悪し以前に、「この支出がどの商談・どの売上につながったか」を説明できる状態を作れているかどうかが、予算を守れるかどうかの分かれ目になります。
ここからはRespectifyの実務視点です。従業員50〜200名規模の日本のBtoB企業では、マーケティングの予算規模は広告費で月数十万円、年間でも数百万円というケースが中心です。売上10億ドル超の企業とは桁が違いますが、置かれた構造はむしろ厳しい側にあります。
米国の大企業では、CMOが59%の確率で「予算が足りない」と感じている。この事実は、日本の担当者にとって2つの意味を持ちます。1つは、予算が足りないと感じること自体は異常ではなく、交渉の出発点として堂々と口にしてよいということ。もう1つは、「足りないから増やしてほしい」だけでは通らない時代であり、増えない前提で価値を証明する段取りが先だということです。
なお、ハーバード・ビジネス・レビューに2025年に掲載された論考でも、マーケティングのKPIが財務側の指標とずれたままでは、成果を出していても経営に価値が伝わらないことが指摘されています。予算の問題は、実は報告の言語の問題でもあるのです。(参照:Harvard Business Review「When CMOs and CFOs Align Their KPIs, They Deliver More Value」(2025))
では、月数十万円規模の予算を預かる担当者は何から着手すべきでしょうか。私たちが支援の現場でおすすめしているのは、計測整備、運用整備、成果ストーリーの順で進めることです。逆順、つまり報告資料の体裁から着手すると、根拠となる数字がなく毎月の集計が手作業になり、続きません。
最初の1〜2か月で、施策と成果が記録の上でつながる状態を作ります。高度な分析基盤は不要で、確認することは3つです。
1. 成果地点を決める: 報告の終点を「問い合わせ数」ではなく「商談化数」(可能なら受注)に置きます。 2. リードの発生源を記録する: フォーム経由のリードに、どの施策(広告・検索・展示会・紹介)から来たかが自動で記録される設定にします。広告にはパラメータ付きURL(流入元を識別するための目印付きリンク)を使うのが基本です。 3. リードと商談を結びつける: 営業側の商談記録と、マーケ側のリード記録が同じ顧客データ上でつながっているかを確認します。ここが切れていると、施策と売上は永遠に結びつきません。
CRMやMAの設定がこの構造になっていない場合は、設定の見直しから入ります。Respectifyでも計測整備から始めるリード獲得・育成の支援の入り口として、この「リードから商談までの記録の一本化」から着手するケースが多くあります。
計測は、初月に1回できることより、毎月続くことが重要です。流入元別のリード数・商談化数・商談化率を1枚の表に固定し、手作業の集計をなくします。営業側には「商談を作るときにリードと紐づける」という最低限の入力ルールだけを依頼します。少人数体制では、運用ルールは少ないほど守られます。
計測と運用が揃って初めて、報告を変えられます。「先月のリードは80件でした」ではなく、「広告経由のリードからの商談化率は他チャネルの2倍なので、この予算は維持すべきです」という形です。施策別の費用対効果が商談ベースで語れるようになると、削減の議論でも「どれを残すか」を自分の数字で主導できます。前述のGartner調査も、この場面で使えます。「米国の大企業でも予算は売上比7.7%で頭打ちであり、問われているのは増額の是非ではなく配分の優先順位です」という整理は、上長や経営層との議論の土台になります。海外の予算・支出に関する定点調査としては、米国のThe CMO Surveyも継続的な参照先になります。(参照:The CMO Survey)
この3段階の設計と運用は、広告運用の改善と一体で進めるのが効率的です。施策と計測をどう組み立てるかは、今後の記事でも具体的に扱っていきます。
予算が増えない前提は、悲観材料ではなく段取りの前提条件です。自社の計測がどこで切れているか分からない場合は、無料相談からお気軽にご相談ください。