広告の成果を報告するとき、多くの現場が頼っているのは「最後にクリックされた経路」です。コンバージョン直前に踏まれた広告に、まるごと手柄が割り当てられる。便利ではあるのですが、この測り方には大きな盲点があります。検索される前にブランドを思い出させた施策や、クリックを伴わずに態度を変えた接点が、計測上はゼロ評価になってしまうのです。本稿では、こうした「クリックだけで測る」状態から抜け出すための代表的な4つの計測手法を平易に整理し、人手も予算も限られた中堅・グループ会社のマーケティングでも始められる順番を示します。
目次
ここ数年、クリックを軸にした計測はむしろ難しくなっています。Cookie規制やプライバシー保護の強化で、ユーザー一人ひとりを経路の最初から最後まで追い切ることが技術的に困難になりました。その結果、トラッキングできた一部の経路だけで成果を判断し、追えなかった接点は存在しないものとして扱う、という偏りが生まれています。
具体例で考えます。展示会で名刺交換した相手が、後日「社名+製品名」で指名検索し、検索広告をクリックして問い合わせたとします。最後のクリックだけを見れば、この受注は「検索広告の成果」です。しかし実際にきっかけを作ったのは展示会であり、検索広告は背中を押しただけかもしれません。指名検索やリターゲティングのように「すでに知っている人が最後に踏む接点」は過大評価され、認知を作る施策ほど過小評価される。これが、クリック起点の計測が抱える構造的な偏りです。
この問題意識は海外でも一般化しており、マーケティング専門メディアのmartech.orgは、上級マーケティング責任者の64%がマーケティング・ミックス・モデリング(後述)を導入しているとするGartnerの調査結果を紹介しています(参照:martech「Unlocking the power of marketing mix modeling solutions」、原典:Gartner(4009899))。これは二次メディア経由で報じられた数字であり、一次レポートはGartnerの会員向けに限定されています。そのため本稿では、この64%を「クリック以外の手法へ関心が広がっている傾向の一例」として扱い、結論をこの一点に寄せることはしません。重要なのは数字の大きさそのものより、「最後のクリックだけでは測れない」という認識が広く共有されつつある、という流れのほうです。
クリック起点の計測を補ったり置き換えたりする手法は、大きく4つに整理できます。Gartnerもマーケティング計測の進化を複数の手法の組み合わせとして論じており、ここでは実務で耳にする順に、できるだけ平易に説明します(参照:Gartner「Magic Quadrant / Market Guide 関連文書」(5389963))。
MTA(Multi-Touch Attribution)は、一人の顧客がたどった複数の接点に、成果を分け合わせて割り当てる考え方です。最後のクリックに100%与えるのではなく、最初の接点・途中の接点・最後の接点それぞれに重みをつけて配分します。
長所は、デジタル施策の細かい貢献を可視化できることです。短所は、Cookie規制で個人の経路を追い切れなくなった今、データの欠損が大きくなりがちな点です。追えた経路だけで割り当てると、追えなかった接点(オフラインの展示会や口コミなど)が抜け落ちます。デジタル接点が中心で、ある程度データが揃う場合に向いた手法だと考えてください。
MMM(Marketing Mix Modeling)は、個人を追跡しない別のアプローチです。週次や月次の売上と、各チャネルの出稿量・費用・季節要因などをまとめて統計的に分析し、「どのチャネルがどれだけ売上に効いたか」を全体として推定します。
個人を追わないため、Cookie規制の影響を受けにくく、オフライン施設の出稿や展示会のような追跡しづらい接点も扱えるのが長所です。先ほどの「64%が導入」という関心の高まりも、この追跡に頼らない性質が背景にあります。短所は、ある程度の期間にわたる売上データと履歴が必要で、分析にも専門性がいる点です。歴史的には大企業のテレビ広告評価で使われてきた手法ですが、近年は簡易に扱えるツールも増えています。
ホールドアウトテストは、考え方が最もシンプルで、中堅企業でも始めやすい手法です。広告を「見せるグループ」と「あえて見せないグループ」に分け、両者の成果(問い合わせや受注)を比べます。差が出れば、それがその広告の純粋な効果だと判断できます。
長所は、相関ではなく因果に近い形で「その広告がなかったらどうなっていたか」を確かめられることです。最後のクリックの割り当てに悩むより、見せた群と見せなかった群を比べるほうが、説明としても直感的で経営層に伝わりやすい面があります。短所は、一定の規模がないと差が誤差に埋もれること、そして「見せない群」を作る分だけ目先の機会を一時的に手放す覚悟が要ることです。とはいえ、地域や顧客リストを2つに分けて片方にだけ広告を当てる、といった形なら、少人数のチームでも設計できます。
UMA(Unified Marketing Measurement)は、上の手法を1つに統合しようとする発想です。MMMで全体像をつかみ、MTAで細部を補い、ホールドアウトで因果を検証する。それぞれの長所を組み合わせ、短所を補い合わせて、ひとつの計測の土台にまとめます。
理想形ではありますが、相応のデータ基盤と運用体制が前提になります。最初からここを目指すのではなく、まず1つの手法で「クリック以外の根拠」を持つことから始め、必要に応じて束ねていく、という順番が現実的です。
ここからはRespectifyの実務視点です。私たちは、人手も予算も限られた日本のBtoB企業がいきなりMMMやUMAを目指すのは、多くの場合で過剰だと考えています。統計の専門家を抱えていない組織が大掛かりなモデルから入ると、構築自体が目的化し、肝心の「で、どの施策を増やすのか」という意思決定に結びつかないまま止まりがちだからです。
現実的な入口は、4つのうち最もシンプルなホールドアウトテストです。たとえば、リターゲティング広告の効果に疑問があるなら、配信対象のリストを2つに分け、片方には配信を止めてみます。一定期間後に両者の問い合わせ数や商談化数を比べれば、その広告が本当に上乗せを生んでいたのかが、最後のクリックの数字に頼らず見えてきます。差がほとんどなければ、その予算は別の施策に回す判断ができます。これは統計の専門知識がなくても、考え方さえ押さえれば設計できる最小の実験です。
グループ会社で親会社への報告を担う立場であれば、この実験結果はそのまま稟議や報告の根拠になります。「最後のクリックでは検索広告が成果のように見えるが、見せない群と比べると差はわずかだった」という事実は、活動量の報告よりはるかに説得力があります。逆に少人数のマーケティング担当であれば、上長に「この広告は本当に効いているのか」と問われたとき、感覚ではなく実験の差分で答えられるようになります。クリック数の報告から、因果に近い根拠を示す報告への切り替えです。
注意点も添えます。第一に、ホールドアウトは「見せない群」を作る性質上、繁忙期や重要案件の最中に主力施策で行うのは避けるべきです。影響の小さい施策や閑散期から試すのが安全です。第二に、1回の実験で出た差を過信しないこと。条件を変えて何度か再現できて初めて、施策判断の根拠として使えます。
なお、これらの計測を継続的に回すには、施策と商談・受注を1か所でつなぐ土台が欠かせません。広告やサイトの成果を商談ベースで追える設計づくりは、計測設計を含むリード獲得・育成の支援で私たちが最初に着手する領域です。どの手法から始めるべきか自社のデータ状況と合わせて相談したい場合は、無料相談もご利用いただけます。