ツールを入れるたびにダッシュボードが増え、レポートのページ数も増えていきます。それでも役員会や親会社への報告でROI(投資対効果)の話になると、説明が急に頼りなくなる。「その数字は、結局いくらの売上につながったのか」と問われた瞬間に言葉が詰まる。この感覚に心当たりがあるなら、それはあなた個人の説明力の問題ではありません。米国の経営層を対象にした最近の調査は、マーケティングのROIをどう測っているかを取締役会に説明できる責任者が、ちょうど半数にとどまることを示しています。本稿では、その調査からレポートが増えても説明できない構造を確認し、商談ベースで成果を語るための最小の計測設計を整理します。
目次
まず、この問題が世界共通の構造であることを数字で確認します。
調査会社Sapioが2026年1月に実施し、計測ベンダーであるHausが公表した調査によると、米国の経営層500名のうち、マーケティングのROIをどのように測っているかを取締役会に対して説明できると答えた責任者は49%でした。残りの半数強は、報告はしていても、その測り方そのものを経営の場で正面から擁護できる状態にありません。なお、この調査の発信元であるHausは、広告効果の計測を事業とするベンダーである点は割り引いて読む必要があります。(参照:PR Newswire「Half of Marketing Leaders Can't Defend How They Measure ROI」(2026))
同じ調査では、より根の深い数字も示されています。51%の経営層が、自社のマーケティング計測について「本当に重要な指標ではなく、測りやすい指標を測っているだけだ」と認めています。つまり、説明できないだけでなく、そもそも測る対象が経営の意思決定にかみ合っていない、という自覚があるということです。(参照:Haus「2026 Marketing Decision Confidence Index」)
この「測りやすい指標を測っているだけ」という状態は、実際のお金の使い方にも跳ね返っています。調査では、35%の経営層が、マーケティング予算の20%超を非効率な配分に充てていると回答しました。さらに74%は、計測への自信が持てないことを理由に、施策の中止や縮小を判断した経験があると答えています。測れないことは、説明の問題にとどまらず、投資判断そのものを歪めているわけです。(参照:Demand Gen Report)
注意したいのは、これがマーケティング軽視の話ではないことです。同じ経営層の90%は、マーケティングが事業成長を牽引すると考えています。期待されていないのではなく、期待されているのに、その貢献を測って説明する手段が追いついていない。ここに今回の論点の核心があります。(参照:MarTech Cube)
ダッシュボードやレポートを増やせば説明力が上がる、というのは直感的にはもっともらしく聞こえます。しかし調査が示すのは逆の構造です。表示回数、クリック率、開封率、フォロワー数といった指標は、ツールを足すほど自動的に増えていきます。これらは取得が容易で、グラフにすると見栄えもします。だからこそ報告の主役に据えられやすい。けれども、どれも「いくらの売上の種になったか」という経営の問いには直接答えていません。
51%が認めた「測りやすい指標を測っているだけ」という状態は、まさにこの罠です。レポートのページ数は増えているのに、その大半が活動の量を記録したものであって、投資が成果に変わったかを示していない。役員が知りたい一点だけが、分厚いレポートのどこにも書かれていない。これが「ダッシュボードは増えたのに説明できない」という逆説の正体です。
重要なのは、活動指標が無価値だという話ではないことです。クリック率や開封率は、施策を改善するためには欠かせません。問題は、それを経営報告の主役に据えてしまうことにあります。施策改善のための指標と、経営に成果を説明するための指標は、役割が違う。両者を分けないまま一つのレポートに混在させると、肝心の説明が活動報告の中に埋もれてしまいます。
ここからはRespectifyの実務視点です。私たちは、この計測のずれが、日本のBtoB企業ではむしろ表面化しにくく、温存されやすいと考えています。
理由は報告文化の違いにあります。日本の月次報告や稟議では、「リード◯件、問い合わせ◯件、前月比◯%」という活動報告が、体裁さえ整っていればそのまま通っていきます。米国のように取締役会で計測手法そのものを問い詰められる場面が少ないぶん、活動指標を商談や売上の言葉に翻訳する習慣が育ちません。今回の調査で米国の経営層の半数が「説明できない」と自覚していること自体、日本ではその自覚すら持ちにくい、という裏返しでもあります。
そして、ずれが表面化するのは決まって最も不利なタイミングです。親会社からの予算見直し要請、業績悪化に伴うコスト削減、上長の交代。「このマーケティング費用は何を生んでいるのか」と初めて正面から問われたとき、手元に活動指標しかなければ、74%の調査結果と同じように、説明できないまま施策や予算を削られます。通っている報告と、伝わっている報告は別物です。前者は平時に成立し、後者だけが有事に効きます。
加えて、35%が予算の20%超を非効率に配分しているという数字は、日本の文脈ではさらに見えにくくなります。広告やツールの費用が「去年もこうだったから」という理由で更新され続け、どの支出がどの商談につながったかを誰も追っていない。非効率が非効率として可視化されていないだけで、構造としては同じものが起きている可能性があります。
では、何から手をつけるか。Sapioの調査が突きつけているのは、高度な分析手法を導入する前に、まず「成果を商談と金額で語れる状態」をつくることの重要性です。従業員50〜200名規模のBtoB企業であれば、次の4ステップから始められます。一度に完璧を目指す必要はありません。
この4ステップに高価なツールは要りません。むしろ重要なのは、測りやすい指標から商談・金額の指標へ「主役を交代させる」という発想の切り替えです。
注意点も2つ添えます。第一に、貢献を盛らないこと。「この受注はマーケのおかげ」と過大に主張すると、営業との関係と報告自体の信頼を失います。マーケティング接点の有無を事実として示すにとどめるのが、長く続く運用です。第二に、最初から厳密なアトリビューション(どの施策が成果にどれだけ貢献したかの割り当て)を目指さないこと。74%が計測への自信のなさで施策を止めてしまうのは、いきなり高度な計測を求めすぎる側面もあります。まずは「施策と商談がつながって見える」状態をつくるのが先で、精緻化はその後で十分です。
この計測の土台づくり、つまり広告やコンテンツの成果を商談ベースで追える設計は、商談ベースで成果を測るリード獲得・育成の支援で私たちが最初に着手する領域です。その土台となる、マーケと商談データを同じCRM上でつなぐ実装は、HubSpotを使った商談データ連携の支援が起点になります。
マーケティングの予算と裁量は、成果そのものではなく「成果を商談と金額の言葉で説明できたかどうか」で決まります。来月の報告書の1ページ目を、商談と金額の数字から書き始めてみてください。計測の設計から相談したい場合は、無料相談もご利用いただけます。