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担当者ひとりで進む商談はなぜ崩れやすいのか?

作成者: 杉江 昂|Jun 22, 2026 4:02:12 PM

順調に見えていた商談が、ある日を境に進まなくなる。窓口だった担当者が異動した、社内の別部署から反対が出た、決裁の段階で予算が止まった。営業の現場では珍しくない光景です。そして振り返ってみると、その商談はずっと「先方のひとり」とのやり取りだけで進んでいた、というケースが少なくありません。窓口がひとりだと、関係づくりも情報も合意形成も、その人ひとりに依存します。本稿では、商談を担当者ひとりとのやり取りで進めること(シングルスレッド)の危うさを、米国Gongが180万件の商談を分析したデータで確認し、日本のBtoB企業が商談に複数の関与者を束ねる運用をどう作るかを考えます。

目次

  1. 担当者ひとりで進む商談の弱さ
  2. 大型商談ほど、ひとりでは決まらない
  3. 別の調査も「早く、広く関与者を入れる」を支持する
  4. 日本の稟議商談こそ、複数接点が効く
  5. 商談に複数の関与者を束ねる進め方
  6. まとめ

担当者ひとりで進む商談の弱さ

商談の窓口がひとりに固定されている状態は、営業にとって一見やりやすい状況です。連絡相手が決まっていて、話が早く、関係も深まりやすい。問題は、その「ひとり」に商談のすべてがぶら下がっている点にあります。その人が異動・退職すれば窓口ごと消え、社内で味方を作れていなければ稟議の段階で止まり、こちらの提案が先方の組織内でどう伝わっているかも見えません。担当者ひとりに頼った進め方を、ここではシングルスレッド(単線でつながった商談)と呼びます。

この弱さがどれだけ受注率に響くのかを、データで確認できます。営業支援ツールを提供する米国Gongは、自社プラットフォーム上で2024年にクローズした180万件の新規商談を分析し、成約に至った商談は失注した商談に比べて、購買側の接点(やり取りのある関与者)の数が約2倍多かったと報告しています。窓口がひとりかどうかは、好みや進め方の差ではなく、勝ち負けに直結する差として現れていたわけです。(参照:Gong「Data shows top reps don't just sell, they orchestrate with AI」

ここで補足が必要です。これはGongの顧客企業のデータであり、対象は米国を中心とした英語圏のBtoB営業が中心です。SaaSやテック企業の比率が高いとみられ、日本の対面文化や業界によってはそのまま当てはまらない部分もあります。それでも「接点が多い商談ほど成約している」という傾向そのものは、後述する別の独立調査でも確認できる、頑健な傾向です。

大型商談ほど、ひとりでは決まらない

接点の数が効く度合いは、商談の規模が大きくなるほど強まります。同じGongの分析では、規模の大きい戦略的な商談には平均17人の関与者がいたとされています。さらに、5万ドル(為替にもよりますが、約750万円が目安です)を超える商談では、複数の関与者と接点を持つ進め方によって勝率が平均130%向上したと報告されています。(参照:Gong「Data shows top reps don't just sell, they orchestrate with AI」Gong「The best sales insights of 2025」

130%という数字は印象的ですが、断定して受け取るより、規模の大きい商談ほど関与者が増えるという当たり前の事実の裏返しとして読むのが妥当です。金額が大きければ決裁の階層が増え、利用部門・予算部門・情報システム部門など、関心の異なる人が検討に加わります。買い手の側が複数人で検討しているのに、売り手の側がそのうちのひとりとしかつながっていなければ、残りの人たちの懸念や反対は売り手から見えないまま商談の中で進行します。大型商談がひとりで決まらないのは、買い手の意思決定がそもそもひとりで完結していないからです。

なお、ここで紹介した数字は、いずれもGongが2024年クローズの商談を集計した同一のデータセットに基づくものです。同社が過去に公表してきた別年次の数字とは集計対象が異なるため、本稿では2024年集計の180万商談を一貫した基準として扱っています。

別の調査も「早く、広く関与者を入れる」を支持する

Gong1社のデータだけで結論づけるのは早計です。そこで、別の独立した調査を見てみます。営業データ分析のEbstaとコミュニティ運営のPavilionが共同でまとめた2025年のGTMベンチマークは、65万件超の商談を対象にした分析で、意思決定者を早い段階で巻き込んだ商談は勝率が55%高かったと報告しています。提供元が異なり、対象商談も別であるにもかかわらず、「関与者を、早く、広く商談に入れる」ことが受注に効くという方向は一致しています。(参照:Ebsta × Pavilion「2025 GTM Benchmarks」

この調査もSaaS・テック中心のデータである点は割り引いて読む必要があります。ただし、対象も提供元も違う2つの調査が同じ方向を指していることは、傾向の信頼性を高めます。担当者ひとりに頼らず、関与者を増やしながら進めるという原則は、特定のベンダーのポジショントークではなく、複数のデータで支持される考え方だと言えます。

日本の稟議商談こそ、複数接点が効く

ここからはRespectifyの視点です。「複数の関与者を商談に束ねる」という考え方は海外発ですが、日本のBtoB商談にこそ素直に当てはまると私たちは考えています。

日本企業の購買は、もともとひとりで完結しません。稟議書が複数の階層を回り、現場・管理部門・情報システム・経営と、評価軸の異なる部署が合議して決めます。つまり日本の商談は構造的にマルチスレッドが前提です。にもかかわらず、売り手側の管理はシングルスレッドになりがちです。窓口の担当者ひとりとだけメールや打ち合わせを重ね、その人の後ろにいる決裁者や反対者が見えていない。買い手は複数人で検討しているのに、売り手は単線でしか見えていない。この非対称が、「順調だったのに急に止まる」商談を生みます。

そしてこの問題は、営業とマーケティングの分断にもつながっています。マーケティングが苦労して獲得したリードを営業に渡しても、その1件が「先方のひとり」として放置され、商談に紐づく他の関与者へ広がらないまま立ち消える。渡したリードが商談にならない原因の一端は、リードの質ではなく、受け取った後にその1接点を広げられていないことにあります。リードを商談に変える段階で関与者を束ね直す視点は、リード獲得から商談につなげる仕組みづくりとも地続きのテーマです。

商談に複数の関与者を束ねる進め方

では、担当者ひとりに頼った商談を、どう複数接点に開いていくか。従業員50〜300名規模のBtoB企業を想定し、特定のツールに依存しない3つの手順に整理します。主要なCRM/SFAであれば、いずれも標準機能の範囲で実現できます。

手順1:商談に関与者を「役割つき」で記録する

最初の一歩は、商談(取引)のレコードに、窓口のひとりだけでなく、検討に関わるすべての人を関連付けることです。打ち合わせに同席した人、メールのCCに入っている人、稟議に関わると分かっている人を、役割(決裁者・推進者・利用者・反対者など)とあわせて商談に紐づけます。

着手の目安として、まず直近の受注・失注それぞれ10件を見返し、商談に紐づくコンタクトが「ひとり」しか記録されていない案件の比率を数えてみてください。この比率が高いほど、買い手の実態とデータの落差が大きく、ひとりに依存した危うい商談を抱えていることになります。商談ごとに関与者を構造化し、役割別にパイプラインを管理する設計は、商談に複数の関与者を束ねる営業最適化の支援で中心的に扱っているテーマです。

手順2:「接点はひとりだけ」の商談を可視化する

次に、商談一覧の中から「関与者がひとりしか登録されていない商談」を抽出できるようにします。多くのCRMでは、商談に紐づくコンタクト数で絞り込みやレポート作成ができます。金額の大きい商談ほど接点不足のリスクが高いため、金額帯ごとに「平均接点数」を出すと、どこが危ういかが数字で見えてきます。

Gongのデータで大型商談に平均17人が関与していたことを踏まえると、たとえば数百万円規模の商談がひとりの接点だけで進んでいる状態は、明確な危険信号です。この一覧を週次のパイプラインレビューで確認し、「この商談、まだ窓口さんひとりですね。次は誰を入れますか」という会話を定例化するだけでも、商談の進め方は変わります。

手順3:早い段階で関与者を増やす働きかけをルール化する

最後に、関与者を「増やすタイミング」を商談プロセスに組み込みます。EbstaとPavilionの調査が示したのは、意思決定者を早い段階で巻き込んだ商談ほど勝率が高いという点でした。商談が後半に進んでから決裁者を探し始めるのでは遅く、提案や検証の早い段階で「ご利用される現場の方」「ご決裁に関わる方」にも同席をお願いする動きを、営業の標準手順にします。

具体的には、商談ステージごとに「このステージでは少なくとも何の役割の人とつながっているべきか」を決めておく方法が現実的です。たとえば提案段階では推進者と利用部門、検証段階では決裁者と予算部門、というように、ステージと必要な関与者を対応づけます。窓口の担当者に「上長や現場の方にも一度ご説明させてください」と切り出すこと自体が、商談を単線から複線に開く具体的な一手です。

まとめ

  • 担当者ひとりとのやり取りだけで進む商談(シングルスレッド)は、窓口の異動や合意形成の停滞で簡単に止まります。
  • Gongが2024年クローズの180万商談(米国中心・自社プラットフォームのデータ)を分析した結果、成約案件は失注案件の約2倍の購買側接点を持ち、大型商談には平均17人が関与し、5万ドル(約750万円目安)超の商談では複数接点で勝率が130%向上したとされています。
  • EbstaとPavilionの別の調査でも、意思決定者を早期に巻き込んだ商談は勝率が55%高く、「関与者を早く広く入れる」傾向は独立して確認できます。
  • 稟議と合議で購買が進む日本のBtoB商談は構造的にマルチスレッドが前提です。商談に関与者を役割つきで記録し、接点がひとりの商談を可視化し、早い段階で関与者を増やす、という順で運用を整えることを推奨します。

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