商談を振り返るとき、失注理由を「競合に負けた」「価格が合わなかった」と記録していないでしょうか。多くの営業現場で、この2つが失注理由欄の大半を占めます。しかし近年のB2B営業研究が示すのは、別の事実です。負けた相手は競合ではなく、買い手自身の「決められなさ」だったケースが相当数を占めるということです。本稿では、失注の隠れた主因である「決断不安(no decision)」の正体と、日本のBtoB特有の増幅要因、そしてそれを煽りではなく設計で外す方法を整理します。
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営業の世界には長く「現状維持バイアスとの戦い」という言葉がありました。買い手が動かない理由は、今のままで困っていないからだ、という理解です。これに対して近年示されたのが、もう一段深い構造です。
JOLT Effect研究(書籍およびDCM Insightsによる、約2.5万件の商談通話の分析)によると、失注のうち約56%は競合への敗北ではなく、買い手が決断できずに見送る「no decision」によって起きていたとされます。さらにこの研究は、決断できない買い手を動かしているのは「買わないことへの後悔(FOMO)」ではなく、「間違った選択をしてしまうことへの恐れ(FOMU=Fear of Messing Up、失敗回避)」だと指摘します。(参照:Harvard Business Review「Stop Losing Sales to Customer Indecision」(2022)、The JOLT Effect「What Is the JOLT Effect」)
ここが実務上の分岐点です。買い手が恐れているのが「買い損ない」ではなく「選び損ない」だとすれば、追加の値引きや限定オファーで急かすほど、相手の不安はむしろ強まります。背中を押すほど足が止まる、という逆説が起きるのです。
決断不安は個人の性格の問題ではありません。意思決定の構造そのものが不安を生みます。
Gartnerの調査によると、B2Bの購買において買い手チームの内部で「不健全な対立」が観察される割合は高く、調査対象の買い手グループの74%が意思決定プロセス中にそうした対立を示したとされます。購買に関与する人数が増えるほど、利害も評価軸も分かれ、合意形成のコストが跳ね上がります。(参照:Gartner「74% of B2B Buyer Teams Demonstrate Unhealthy Conflict During the Decision Process」(2025))
関与者が増えるほど、合意は遠のく。これは売り手の説得力の問題ではなく、買い手側の構造の問題です。
つまり、商談相手の担当者が前向きでも、その背後にいる複数の関与者の不安が解けなければ、商談は前に進みません。営業が向き合うべき相手は、目の前の一人ではなく、見えない関与者を含めた「意思決定の場」全体だということになります。
この構造は、足元の数字にも表れています。
営業研修会社RAIN Groupの自社調査(2026年、回答者322名)によると、パイプライン(商談の積み上げ)は成長しているにもかかわらず、成約の成果がそれに見合って伸びていないという課題が広く共有されています。商談の「数」を増やしても、買い手が決め切れずに止まる案件が増えれば、パイプラインは膨らむだけで売上に変換されません。(参照:RAIN Group「Pipeline Is Growing. Why Aren't Sales Results Keeping Pace?」(2026))
ここで多くの現場が陥るのが、失注を「競合」「価格」に丸めて記録してしまうことです。本当の停滞要因である「決断不安」が数字に残らないため、対策が常に値引きや競合対策に偏り、根本が放置され続けます。
ここからはRespectifyの実務視点です。海外研究が示す「決断不安」は、日本のBtoB商習慣においていっそう強く働くと私たちは考えています。
この環境で「今だけ」「買わないと損」というFOMO型のクロージングをかけると、関与者の警戒はむしろ強まります。日本のBtoBで効くのは、煽りではなく「この選択で失敗する確率を下げる」設計です。具体的には、導入後の運用像を先に見せる、小さく始められる段階を用意する、想定される反対意見への答えをあらかじめ持参する、といった「不安の先回り」が成約率を動かします。属人的な勘ではなく、買い手の不安を仕組みで外す発想です。この考え方はエースの営業ノウハウを仕組みに変える取り組みとも地続きです。
では、何から始めるか。Respectifyが最初に提案するのは、失注理由の記録を変えることです。
多くのCRMでは、失注理由の選択肢が「競合」「価格」「タイミング」程度しかありません。ここに「決断不安/no decision(買い手が決め切れず見送り)」という区分を追加し、運用ルールとして定義します。すると、これまで「競合」「価格」に紛れていた停滞案件が、データとして輪郭を持ち始めます。
このデータが揃うと、対策の議論が「もっと値引きを」から「どの不安を、どの段階で外すか」へ移ります。失注を競合や価格に丸めず、決断不安という構造として見える化すること。これがRespectifyの立場であり、HubSpot Sales Hubを使った営業最適化・パイプライン管理の起点でもあります。データが構造を映し出して初めて、現場の打ち手は再現性を持ちます。
「決められない」を見える化することが、失注構造を変える第一歩になります。自社のパイプラインで何が本当に止めているのかを知りたい方は、無料相談からご相談ください。