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価格決定の属人化が利益率を削る|値引きの仕組み化|Respectify

作成者: 杉江 昂|Jun 15, 2026 4:01:04 PM

「この案件、いくらまで引いていいですか」。この質問に、明文化されたルールで答えられる会社はどれだけあるでしょうか。多くの現場では、値引きの最終判断はベテラン営業の経験と勘、あるいは「部長がうんと言うか」に委ねられています。結果として、同じ商品が顧客ごとに違う価格で売られ、誰がいくらで売ったのかを後から検証できない。利益率が月によってぶれる理由を経営層に聞かれても、説明できる材料が手元にない。これが価格決定の属人化です。

目次

  1. 価格決定の改善余地は、ほとんどの会社にある
  2. 値上げに自信がある会社と、ない会社の差
  3. 計画した値上げの半分も実現しない、という現実
  4. 日本の現在地。価格転嫁率は53.5%
  5. 値引きを仕組みにする順番
  6. まとめ

本記事では、海外の調査データと日本の価格転嫁の統計を突き合わせながら、価格決定が属人化する構造と、仕組みに変えていく順番を整理します。

価格決定の改善余地は、ほとんどの会社にある

価格の問題は「一部のダメな会社」の話ではありません。コンサルティング会社Bain & Companyが2018年に実施した調査(営業責任者・経営層など1,700社超が対象)では、約85%の回答者が「自社の価格決定には改善の余地がある」と答えています。一方で、専用のプライシングツールを使っている企業は26%にとどまりました。つまり大半の会社が、改善が必要だと自覚しながら、判断を支える道具を持たないまま価格を決めているということです。(参照:Bain & Company「Is Pricing Killing Your Profits?」(2018)

道具がなければ、判断は人に宿ります。「あの顧客はこれ以上は出さない」「この時期は引いてでも数字を作る」。こうした判断知は貴重ですが、個人の記憶とExcelの中にしかない限り、検証も引き継ぎもできません。ベテランの異動や退職と同時に、会社の価格戦略そのものが失われることになります。

値上げに自信がある会社と、ない会社の差

では、価格決定を仕組みとして持っている会社と、そうでない会社では何が違うのか。Bainが2025年1月に実施したCommercial Excellence Survey(B2B企業1,263社・グローバル対象)には、その手がかりがあります。

この調査では、値上げをやり切る自信のある企業とない企業の間で、期待利益率パフォーマンスに5〜11ポイントの差があると報告されています。注意したいのは、これが回答企業の自己申告に基づく期待値だという点です。実績の利益率がこれだけ違うと断定できるものではありませんが、「価格に自信を持てる状態かどうか」が利益見通しの差として表れていることは読み取れます。

値上げを阻む障害として挙げられた項目も示唆的です。最大は「競争圧力や顧客の抵抗」で67%ですが、次に「価格決定を支えるデータ・分析能力の不足」が39%、「価格に関するチームのスキル・専門知識の不足」が37%と続きます。外部環境だけでなく、社内のデータと人の準備不足が値上げの足かせになっているわけです。実際、2024年にコスト上昇分を価格で回収できた企業は55%にとどまりました。

打ち手の方向も調査に表れています。値上げを予定する企業の52%が「営業が自社の独自価値を顧客に語れるようにする現場トレーニング」への投資を挙げ、データドリブンな価格ガイダンスを使う企業は商談の勝率が12%高いと回答しています。なお、BainはSimon-Kucherと同様にプライシング支援を事業とするコンサルティング会社であり、調査の結論が自社サービスに有利な方向を向きやすい立場である点は割り引いて読む必要があります。それでも「データと現場教育の両輪」という方向性自体は、規模を問わず参考になる構図です。(参照:Bain & Company「Expanding Profit Margin through Intelligent Pricing: Commercial Excellence Agenda 2025」(2025)

計画した値上げの半分も実現しない、という現実

価格決定の弱さが最もはっきり表れるのが、値上げの局面です。プライシング専門のコンサルティング会社Simon-Kucherが2025年に28か国・2,200名超の経営層を対象に実施したGlobal Pricing Studyでは、企業が計画した値上げ幅のうち、実際に実現できたのは平均で半分未満だったと報告されています。(参照:Simon-Kucher「Global Pricing Study 2025」(2025)

10%の値上げを計画しても、現場の交渉を経ると5%も通らない。この目減りの正体は、多くの場合「現場での個別判断」です。価格表は改定したのに、既存顧客には営業判断で旧価格を据え置く。交渉で粘られると、根拠を示せないまま値引きで着地する。一つひとつは合理的に見える判断の積み重ねが、全社の値上げ計画を半分以下に削っていきます。誰がどこでどれだけ譲歩したのかが記録されていなければ、原因の特定すらできません。

日本の現在地。価格転嫁率は53.5%

この構図は、日本ではコスト上昇分の「価格転嫁」というかたちで毎年数字になっています。中小企業庁が価格交渉促進月間のフォローアップとして実施した調査(2025年9月実施・2025年11月公表・回答69,988社)によると、コスト全体の価格転嫁率は53.5%。前回調査から1.1ポイント上昇したものの、上昇したコストの半分弱は依然として自社で飲み込んでいる計算です。(参照:中小企業庁「価格交渉促進月間(2025年9月)フォローアップ調査の結果」(2025)

費目別では原材料費55.0%、労務費50.0%、エネルギー48.9%で、労務費は調査開始以来初めて50%に到達しました。また「コストが上昇したうち一部でも転嫁できた」企業は83.2%に上る一方、「全く転嫁できなかった・むしろマイナスになった」企業も16.8%残っています。発注側企業から申し入れがあって価格交渉が行われた割合は34.6%で、交渉の機運は広がりつつありますが、テーブルに着けるかどうかと、そこで価格を通せるかどうかは別の問題です。(参照:J-Net21「価格転嫁率は53.5%、3月調査から1.1ポイント増加 中小企業庁の価格交渉促進月間調査」(2025)

従業員50〜200名規模のBtoB企業にとって、この数字は他人事ではありません。労務費もエネルギーも上がり続けるなかで転嫁率が5割そこそこということは、価格交渉力の差がそのまま利益率の差になる時代だということです。そして交渉力の土台は、声の大きさではなく「自社の取引データを根拠として示せるかどうか」にあります。

値引きを仕組みにする順番

ここまでの調査が示す共通点は、価格の問題がツール以前に「見える状態」の問題だということです。私たちが推奨する順番は次の通りです。

第一歩は、ディール単位の値引き率と粗利の可視化

最初にやるべきは、商談(ディール)ごとに定価・販売価格・値引き率・粗利を記録し、誰でも見られる状態にすることです。CRM上で商談に値引き率のフィールドを持たせるだけでも、「どの営業が、どの顧客に、どの程度の値引きで売っているか」が初めて分布として見えます。個人の記憶とExcelでは、この検証は構造的にできません。月次の利益率のぶれを経営層や親会社に説明できない会社は、ほぼ例外なくここが空白です。CRMの設計からこの可視化を組み込みたい場合は、値引き率や粗利をCRMで可視化する営業最適化の支援で具体的な持ち方を紹介しています。

次に、値引きの決裁ルールを明文化する

データが見えると、初めてルールが作れます。「値引き10%までは担当判断、15%までは課長承認、それ以上は粗利シミュレーション添付のうえ部長承認」のように、裁量の範囲と承認の階段を明文化する。ポイントは、ルールを精緻にすることではなく、例外が記録に残る状態にすることです。例外が見えれば、価格表自体の改定や、特定顧客との取引条件の見直しといった、より根本的な打ち手につながります。

並行して、価格と価値の整合を点検する

価格は営業だけの問題ではなく、マーケティングの4P(製品・価格・流通・販促)の一つです。提案資料・Webサイト・料金ページで訴求している価値と、実際に請求している価格の間に整合が取れているかを定期的に点検してください。値引きが常態化している商材は、多くの場合「価格に見合う価値を顧客に伝えきれていない」症状でもあります。Bainの調査で値上げ予定企業の52%が現場トレーニングに投資すると答えたのは、まさにこの「価値を語る力」への投資です。獲得コストの面でも、平均値引き率が上がれば許容できる顧客獲得単価は下がるため、広告投資の設計と値引き管理は本来つながっています。この領域は価値訴求を整えるリード獲得・育成の支援の守備範囲です。

まとめ

価格決定の属人化は、営業個人の能力問題ではなく、判断を支えるデータと記録の不在という構造問題です。2018年のBain調査では約85%の企業が価格決定に改善余地を自覚し、2025年の調査でも値上げに自信のある企業とない企業の間で期待利益率パフォーマンスに5〜11ポイントの差(自己申告ベース)が報告されました。Simon-Kucherの調査では計画した値上げ幅のうち実現は平均で半分未満。日本では価格転嫁率53.5%という数字が、交渉力の差が利益率の差になる現実を示しています。

着手の順番は、ルール作りより先に「誰が、いくらで売ったかが見える状態」を作ること。ディール単位の値引き率と粗利の可視化から始めれば、決裁ルールの明文化も、価格と価値の整合点検も、データを根拠に進められます。値上げが避けられない時代に、価格を経験と勘から会社の資産に変える一歩として、まず自社の値引きの分布を見ることから始めてみてください。仕組み化の進め方を相談したい場合は、無料相談からお声がけください。