四半期の頭に出した売上予測が、締めてみると合っていない。上方にも下方にも外れ、経営会議や親会社への報告のたびに「なぜずれたのか」の説明に追われる。これは担当者の読みが甘いせいでしょうか。米国のSPM(セールスパフォーマンスマネジメント、営業の実績・報酬管理)ツールベンダーであるXactly社が2024年7月に公表した調査では、営業・財務リーダーの5人に4人が、過去1年間に四半期の売上予測を外したと回答しています。本稿ではこの調査を入り口に、予測が外れ続ける会社に共通するデータの構造と、予測できる状態をつくる整備の順番を整理します。
目次
まず調査の概要です。Xactly社が2024年7月に公表した「2024 State of Sales Forecasting Benchmark」は、営業・財務・レベニューオペレーション(営業に関わる業務とデータを横断管理する職種)の専門職400名を対象にした調査です。主な結果は次のとおりです。
ここでひとつ注意があります。Xactly社は予測や実績管理を支援するツールを販売するベンダーであり、「予測は難しい」という結論が自社製品の訴求につながる立場です。数字はその前提で割り引いて読む必要があります。それでも、4回ある四半期予測のどこかで8割が外しているという結果は、「予測が外れるのは特定の誰かの問題ではなく、ほとんどの組織で起きている構造的な現象」と読むには十分です。(参照:Xactly「2024 State of Sales Forecasting Benchmarks」(2024年))
この調査で最も示唆的なのは、外れる理由です。Xactlyの調査では、正確な売上予測の障害として最も多く挙げられたのは「報告システムが過去のCRM(顧客管理システム)や実績データにアクセスできない」で、66%にのぼりました。
述語を正確に押さえてください。「データがない」のではありません。CRMにも基幹システムにも過去の記録は存在するのに、予測をつくる報告の仕組みからそのデータに手が届かない、という回答です。商談履歴はCRMに、受注実績は販売管理に、見込みはExcelにと保管場所が分かれ、予測の場面でつなげて参照できない。データの不在ではなく、データの分断が最大の障害だと当事者たちが答えているのです。
裏返しの数字もあります。Xactlyの調査では、97%が「適切なデータがあれば、正確な予測を出すことはずっと容易になる」と回答しています。現場は精神論ではなく、データの問題だと自覚しています。
ここからはRespectifyの実務視点です。日本のBtoB企業、とくに親会社へ月次の予実報告を行うグループ会社で私たちがよく見るのは、予測が「営業一人ひとりの感覚の積み上げ」でできあがっている状態です。各担当者が「この案件はいけそうなので80%」と申告し、マネージャーが鉛筆をなめて補正し、合算して報告する。外れたときに検証できないのは、そもそも根拠が個人の感覚だからです。
実績にもとづく予測には、最低限「ステージごとの通過率」と「ステージごとの所要期間」が必要です。提案段階まで進んだ商談は過去にどのくらいの割合で受注したか、初回面談から受注まで平均何日かかったか。この2つの実績があって初めて、「現在のパイプライン(進行中の商談一覧)から今四半期はいくら着地しそうか」を機械的に計算できます。
逆に言えば、過去の商談がどのステージをいつ通過したかというデータが残っていなければ、実績ベースの予測は原理的に作れません。Xactlyの調査が示した66%の障害は、まさにこの話です。日本の場合はさらに、案件情報がExcelと営業個人の記憶にあり、CRMに入っていても商談ステージの定義が人によって違う、という手前の段階でつまずいている会社が少なくありません。予測の精度を上げる前に、予測の材料が蓄積される仕組みがないのです。
「うちはCRMを入れているのに」という反論があるかもしれません。しかしツールの導入と活用の間には大きな溝があります。戦略コンサルティング会社のベイン・アンド・カンパニーが2025年4月に公表した調査(18業界・1,200名超のシニア役員対象。大企業中心の回答である点は留意が必要です)では、80%超が型化された営業・マーケティング活動を実施していると答える一方、70%はその営業の型をCRMなどのテクノロジーに効果的に統合できておらず、フル活用できているのは約20%にとどまると報告されています。(参照:Bain & Company「70% of companies struggle to integrate their sales plays into CRM and revenue technologies」(2025年))
そして統合の手前には、データそのものの品質問題があります。データ品質ツールベンダーのValidity社による2025年調査(CRM利用者602名)では、76%が「自社のCRMデータは半分以上が不正確または不完全」と回答しています。汚れたデータの整備については別稿「AIの前にCRMの汚れを片付ける」で詳しく扱っていますが、予測の文脈でも結論は同じです。ステージの定義が揃わず、入力が徹底されず、データが信用できない状態では、どんな高度な予測手法も機能しません。(参照:Validity「The State of CRM Data Management in 2025」(2025年))
では何から手をつけるか。私たちが支援の現場でおすすめしている順番は、次の4段階です。いきなり「予測精度の向上」を目標にせず、材料が貯まる仕組みから整えます。
1. ステージ定義を揃える: 商談ステージを5個前後に絞り、各ステージの「入る条件」を行動ベースで言語化します(例:「提案」は見積書を提出した時点、など)。人によって解釈が割れる定義は、蓄積されるデータごと信用を失わせます。 2. 入力運用を固定する: 商談の作成タイミング、金額と確度の更新ルール、失注理由の記録を最小限のルールにして、週次の営業会議をCRMの画面を見ながら行う運用に切り替えます。会議資料を別途作らせないことが、入力定着の一番の近道です。 3. 蓄積を待ちながら、まず可視化する: 通過率の計算には数か月分のデータが要ります。その間は「ステージ別の商談件数と金額」を見える化するだけでも、感覚の積み上げ報告から一歩前進します。 4. 実績ベースの予測に切り替える: 2〜3四半期分の蓄積ができたら、ステージ別通過率を使った予測値と担当者申告の予測値を並走させ、どちらがどれだけ外れたかを毎四半期検証します。
少人数のマーケティング担当が営業側を巻き込む場合は、もっと小さく始められます。週次で「新たに商談化した件数」「ステージ別の商談金額」「受注と失注の件数」の3つだけを定点観測してください。商談化率と受注率の実績がないと、「リード何件で売上いくら」という逆算ができず、広告予算の費用対効果の説明も成り立ちません。リードの先の数字を持つことは、マーケティングの報告を守る武器にもなります。報告指標の設計は別稿「マーケの成果が経営に伝わらないのは、KPIが財務とずれているから」も参考にしてください。
なお、この整備はCRMの高度な機能よりも、ステージ設計と運用ルールの設計が9割です。Respectifyのパイプラインの可視化と予実管理の支援でも、予測機能の設定より先に、商談ステージの定義と入力運用の立て直しから入るケースがほとんどです。
予測が外れること自体は、どの会社でも起きます。問題は、外れた理由を検証できる材料が残っているかどうかです。来期の予測の前に、まず商談ステージの定義から見直してみてください。自社の現在地の診断から相談したい場合は、無料相談もご利用いただけます。