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営業研修が効く会社は33%|新人が育つ仕組みの差|Respectify

作成者: 杉江 昂|Jun 15, 2026 4:04:04 PM

新人の営業が入ってくるたびに、教えるのはベテランの同行と見よう見まねのOJT。立ち上がりに1年かかり、ようやく独り立ちした頃に辞めてしまう。研修を外部に頼んだ年もあったが、受講直後の感想は良くても半年後には何も残っていない。営業の育成について、多くのBtoB企業がこの繰り返しの中にいます。この問題を考えるうえで参考になる調査が、2024年末に公表されました。営業研修会社のRAIN Groupと、セールスイネーブルメント(営業組織の成果を底上げする研修・コンテンツ・ナレッジ共有の仕組みづくり)ツールを提供するAllego社が共同で実施した「営業研修と継続学習の実態調査」です。本稿ではこの調査を慎重に読み解きながら、研修を「やりっぱなしのイベント」から「新人が辞める前に育つ仕組み」に変える順番を整理します。

目次

  1. 調査の概要と、数字を読む前の注意
  2. 自社の研修を「効果的」と言えるのは3社に1社
  3. プレイブックの本当の課題は「作ること」ではなく「参照されること」
  4. 研修を「イベント」で終わらせない。everboardingという考え方
  5. マーケティングの制作物は、そのまま新人営業の教材になる
  6. まとめ

調査の概要と、数字を読む前の注意

最初に、この調査をどう読むべきかを押さえます。調査は営業職・営業イネーブルメント職242名を対象に実施され、2024年12月に発表されました。回答者の業種は金融サービス、医療機器、製薬などが含まれるとされています。

注意点が2つあります。第一に、回答数242名は数千人規模の大型調査に比べれば小さく、特定業種の比重も高いため、数字は「業界の傾向を示す参考値」として読むのが適切です。第二に、共同実施者のAllegoはイネーブルメントツールを販売するベンダーであり、調査の構図が自社事業に有利になりやすい立場にあります。本稿では同社の製品に関する数字は扱わず、組織の実態に関する設問だけを取り上げます。(参照:Allego「Allego and RAIN Group Research Links Continuous Learning to Sales Performance」(2024)

そしてもうひとつ、本稿で紹介する数字はすべて相関であって因果ではありません。「仕組みがあるから研修が効いている」のか、「もともと体力のある組織だから仕組みも作れている」のか、この調査だけでは区別できない点を踏まえて読み進めてください。

自社の研修を「効果的」と言えるのは3社に1社

調査の中心となる結果はシンプルです。自社の営業研修・人材開発を「極めて効果的」または「非常に効果的」と評価した回答者は、全体の33%にとどまりました。3社に2社は、研修にお金と時間をかけながら、効いているとは言い切れない状態にあるわけです。(参照:RAIN Group「The State of Sales Training and Continuous Learning」(2024)

これは弱い組織だけの話ではありません。RAIN Groupが別に実施した調査(営業担当者・経営層472名対象)では、成果指標で最上位に分類された「エリート」組織でさえ、研修の各領域を効果的と認めた割合は46%から54%にとどまっています。最も強い組織でも約半分ということは、「研修が効いている実感」はそもそも得るのが難しい成果であり、研修会社に丸投げして手に入るものではない、と読むべきでしょう。(参照:RAIN Group「The Top-Performing Sales Organization」

では、33%に入る組織とそれ以外では何が違うのか。調査は両者を比較して、いくつかの差を挙げています。

  • 研修が効果的な組織は、「オンボーディング(入社後の立ち上げ支援)によって新人営業が早期に生産的になっている」という項目に強く同意する割合が4.9倍
  • 望まない離職(会社として手放したくない人材の離職)の率は、研修が効果的な組織で33.8%、そうでない組織で45.5%
  • 「営業プレイブックや営業のベストプラクティス集が最新の状態で、参照しやすい」に強く同意する割合が2.8倍
  • 効果的な組織の93%が対面・講師主導の集合研修を併用(そうでない組織は65%)

繰り返しになりますが、いずれも相関です。「4.9倍速く戦力化する」「プレイブックを作れば研修が2.8倍効く」と読むのは誤りで、正しくは「研修が効いている組織には、オンボーディングと教材整備への強い自己評価が共通して見られる」です。それでも、育成がうまくいっている組織の共通項を知る材料としては十分に示唆があります。

プレイブックの本当の課題は「作ること」ではなく「参照されること」

注目したいのはプレイブックの数字です。「プレイブックが最新で参照しやすい」に強く同意した回答者は、全体ではわずか27%でした。

プレイブックとは、自社の営業の進め方をまとめた手引きのことです。ターゲット顧客の定義、商談の標準的な進め方、よくある質問への回答、競合との違いの説明、価格の考え方などを文書化したものを指します。多くの会社に「営業マニュアル」「提案書のひな形」といった形で似たものは存在します。問題は、それが更新されず、どこにあるかも分からず、結局ベテランに口頭で聞くのが一番早い、という状態に陥ることです。

つまりプレイブックの課題は作成ではなく運用にあります。私たちがCRM導入の支援で現場を見ていても、育成資料が共有サーバーの奥で塩漬けになっている一方、営業が毎日開くのはCRMの商談画面だという会社がほとんどです。であれば、置き場所を逆にするのが合理的です。商談の進行ステージごとに「この段階で使う資料・トーク・よくある質問」をCRM上から参照できるようにしておけば、新人は案件を進めながら必要な型をその場で学べます。教材を探しに行く運用は続かず、業務の動線上に教材が置かれている運用は続く。この設計はプレイブックをCRM上の資産にする営業最適化の支援でも繰り返し扱っている論点です。

なお、プレイブックが「型」を渡すものだとすれば、商談の録画やコーチングは「型の使い方」を磨く仕組みで、これは別の論点になります。コーチングの設計は別稿「エースの営業ノウハウを仕組みに変える」で扱っているため、本稿では深入りしません。

研修を「イベント」で終わらせない。everboardingという考え方

調査にはもうひとつ、日本の現場に引きつけて読みたい数字があります。研修が効果的な組織の30%は「オンボーディングがそのまま継続学習(everboarding)に接続している」に強く同意したのに対し、そうでない組織では7.6%だったという結果です。

everboardingは聞き慣れない言葉ですが、意味は単純で、「学習を入社時の研修で終わらせず、在籍期間を通じて続く仕組みにする」という考え方です。入社1か月の集中研修で詰め込んで終わりにするのではなく、その後も商談の振り返り、教材の更新、定期的な知識の確認が日常業務に組み込まれている状態を指します。前述のメンター制度も同じ文脈で、調査では、研修が効果的な組織は「メンタリングやコーチングが日常的に強く奨励されている」に強く同意する割合が2.9倍という結果でした。育成が「研修部門のイベント」ではなく「現場の日常」になっているかどうかが、33%とそれ以外を分ける共通項だと言えます。

この視点は、育成投資の稟議の組み立て方も変えます。「研修をやる」稟議は効果を説明しにくいものですが、「立ち上げから継続学習までの仕組みを作る」稟議なら、オンボーディング期間、独り立ちまでの月数、教材の参照状況といった測れる指標を置けます。さらに離職の観点も添えられます。先の調査では望まない離職率に33.8%対45.5%という差が見られましたし、LinkedInの「Workplace Learning Report 2025」では、88%の組織が人材の定着に懸念を持ち、学習機会の提供が定着策の第1位に挙がっています。営業1名の離職には、採用費だけでなく、立ち上げにかけた工数と担当案件の停滞という損失が伴います。「研修費」ではなく「採用と立ち上げ投資の保全策」として語ることが、経営に通じる翻訳です。(参照:LinkedIn「Workplace Learning Report 2025」

マーケティングの制作物は、そのまま新人営業の教材になる

最後に、マーケティング担当の視点を加えます。プレイブックの整備と聞くと営業部門の仕事に見えますが、中身を分解すると、導入事例、よくある質問への回答、競合比較、価格の説明資料など、マーケティングが日頃作っているコンテンツとほぼ重なります。

ここに一石二鳥の構造があります。新人営業が先輩に繰り返し聞く質問は、見込み客が検索している疑問とほぼ同じです。「他社製品と何が違うのか」「導入には何が必要か」「価格はどう決まるのか」。これらに答えるコンテンツを作れば、営業の教材とサイトの集客記事の両方になります。マーケ担当が1〜2名しかいない体制なら、なおさらネタ探しを別々にやる余裕はないはずです。月に1度、営業に「最近新人に何を教えたか」「商談でよく聞かれた質問は何か」を聞く場を持つだけで、教材とコンテンツの企画リストが同時にできあがります。

まとめ

  • RAIN GroupとAllego(イネーブルメントツールベンダー)が2024年末に発表した共同調査(242名対象)では、自社の営業研修を極めて/非常に効果的と評価した回答者は33%でした。小規模なベンダー共同調査であり、数字は参考値として読む必要があります。
  • 研修が効果的な組織では、「オンボーディングが新人を早期に戦力化している」に強く同意する割合が4.9倍、「プレイブックが最新で参照しやすい」に強く同意する割合が2.8倍など、立ち上げと教材整備への自己評価の高さが共通していました。いずれも相関であり因果ではありません。
  • プレイブックの課題は作成ではなく運用です。共有サーバーではなく、営業が毎日見るCRMの商談画面の動線上に置くことが、参照される教材の条件になります。
  • 育成投資は「研修イベント」ではなく「入社から継続学習まで続く仕組み」として設計し、稟議では離職率や立ち上げ期間など測れる指標と、採用投資の保全という観点で語るのが現実的です。
  • 新人営業に教える内容と見込み客が知りたい内容は重なります。導入事例やFAQのコンテンツ化は、営業教材とマーケティング資産を同時に作る打ち手です。

研修の効果に自信を持てる33%と、そうでない67%を分けていたのは、研修プログラムの豪華さではなく、学んだことが日常業務の中で参照され続ける仕組みでした。まずは自社のプレイブックが最後にいつ更新されたかを確かめるところから始めてみてください。

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