「最近、営業メンバーの元気がない」「優秀な人ほど辞めていく」。こうした悩みを、本人のやる気やストレス耐性の問題として片づけてしまうと、打ち手は「ハッパをかける」「面談を増やす」あたりで止まってしまいます。けれども、営業の燃え尽きには、本人の根性とは別のところに原因があるという見方があります。それが、日々の業務にまとわりつく「摩擦」です。
本記事では、営業の燃え尽きをやる気の問題ではなく業務プロセスの問題として捉え直し、その摩擦を仕組みで削っていく考え方を整理します。ベテラン依存で回している組織にも、少人数で営業とマーケを兼務している組織にも、構造としては同じ課題が当てはまります。
約9割が燃え尽き、54%が転職活動中という調査
少し古いものの、この課題を考えるうえで今も参照される調査があります。Gartnerが2022年8月に公表したB2B営業担当者への調査で、回答者の約90%が仕事で燃え尽きを感じており、54%が積極的に新しい仕事を探していると報告されています(参照:Gartner「Gartner Sales Survey Finds Nearly 90% of Sellers Feel Burned Out from Work」(2022)、destinationCRM「Gartner Finds Nearly 90 Percent of Sellers Feel Burned Out」(2022))。調査は新型コロナ禍の働き方が色濃かった2021年末から2022年初頭にかけて行われた、いわば「古典」にあたる数字です。そのまま現在の日本にあてはめる種類のデータではありません。
ここで注意したいのは、この「54%」を一般的な離職率と混同しないことです。これは「実際に辞めた人の割合」ではなく、「今まさに転職活動をしている人の割合」です。実際の離職に至らなくても、半数以上が外を向いている状態そのものが、組織にとってのリスクだと読むのが正確です。
数字の大きさよりも注目したいのは、Gartnerがこの燃え尽きの背景として提示した「drive(ドライブ)」と「drag(ドラッグ)」という二つの軸です。
やる気(drive)だけでは説明できない
Gartnerの整理では、営業担当者の状態を「drive」と「drag」という二つの軸で見ます。
- drive(ドライブ): 仕事に対する前向きな動機やエネルギー。いわゆる「やる気」に近い概念です。
- drag(ドラッグ): 業務を前に進めるのを妨げる抵抗のこと。本記事ではこれを「業務摩擦」と呼びます。やるべき仕事の前に立ちはだかる手間や不明確さが積み重なり、先延ばしや消耗を生む状態を指します。
興味深いのは、やる気の側です。同調査では、営業担当者の約4分の3が高いdrive(高いやる気)を持っていると報告されています(参照:destinationCRM「Gartner Finds Nearly 90 Percent of Sellers Feel Burned Out」(2022))。つまり、燃え尽きている人の多くは、やる気を失っているわけではありません。やる気は十分にあるのに燃え尽きている。だからこそ、「もっと気合いを入れろ」という方向の打ち手は的を外しやすいのです。
問題はむしろdragの側にあります。同調査では、約4分の1の営業担当者が高いdrag(高い業務摩擦)を抱えていると報告されています。そして、このdragの高さが、転職活動とノルマ達成の両方に強く関係していました。
業務摩擦が高い人ほど辞め、成果も落ちる
dragの影響は、二つの数字にはっきり表れています。
ひとつは転職活動との関係です。高いdragを抱える営業担当者の70%が積極的に転職活動をしているのに対し、dragが低い担当者では7%にとどまります(参照:destinationCRM「Gartner Finds Nearly 90 Percent of Sellers Feel Burned Out」(2022))。10倍の開きです。やる気の有無ではなく、業務摩擦の大きさが、人が辞めるかどうかをかなりの程度分けていることになります。
もうひとつは成果との関係です。同調査によれば、dragが低い担当者の平均ノルマ達成率は、dragが高い担当者の1.7倍に達します。摩擦が少ない人ほど、辞めにくく、かつ数字も出している。逆に言えば、摩擦を放置することは、離職リスクと成績の低下を同時に招いているということです。
ここから導けるのは、シンプルな問い直しです。離職を防ぎ成果を上げたいなら、メンバーのやる気を引き上げようとする前に、まず業務摩擦そのものを減らせないかを考える。これは精神論ではなく、削れる対象を特定する作業です。
日本の現場での「drag」の正体
では、日本のB2B営業の現場で、dragは具体的に何の形をとっているのでしょうか。Respectifyが従業員50〜200名規模のBtoB企業の現場を見てきた経験では、摩擦の多くは「売る」こと自体ではなく、その周辺の作業に潜んでいます。
ベテランに依存して回している組織では、案件の状況がExcelと本人の記憶の中にあります。月次で親会社や経営層に報告するたびに、点在する情報をかき集めて集計し直す作業が発生します。これは売上に一切寄与しないのに、確実に時間と気力を奪う典型的なdragです。
少人数で営業とマーケを兼務している組織では、別の形をとります。リードの管理は表計算、メール配信は別ツール、商談メモはまた別の場所、という具合にツールを行き来する手間です。一つひとつは小さくても、一日に何度も繰り返せば、それ自体が無視できない摩擦になります。
過去に導入したSFAや名刺管理、MAが乱立し、前任者の退職で設定の意図も分からなくなっている状態も、見えにくいdragです。「どこに何を入れればいいのか」が曖昧なまま運用が続くと、入力のたびに小さな迷いと確認が発生します。営業ツールを増やすほど現場が圧倒されてしまう構図は、より新しい調査でも別の角度から指摘されています。
重要なのは、これらが「がんばれば解決する」種類の問題ではないことです。本人のやる気でかき集める集計作業を速くすることはできても、集計作業そのものをなくさない限り、摩擦は残り続けます。
やる気を上げる前に、摩擦を削る
業務摩擦を減らすうえで土台になるのが、情報を一か所に集める仕組みです。
案件の状況、顧客とのやり取り、次にやるべきことが一つの場所に集約されていれば、報告のための集計はほぼ自動化できます。営業担当者は、点在する情報を探して回る時間を、本来の商談に充てられます。ツールを行き来する手間も、入力先に迷う時間も、設計次第で大きく減らせます。これは、ベテランの頭の中にある知見を組織の資産に変えていく作業でもあり、属人化の解消にもつながります。
もちろん、ツールを入れさえすれば摩擦が消えるわけではありません。むしろ、設計を誤れば「使えないツールがまた一つ増える」という新たなdragを生みます。Gartnerが2024年に公表した調査では、変革を進めながら商業的な成果を出せている営業組織はわずか11%にとどまると報告されています(参照:Gartner「Gartner Survey Reveals Only 11% of Sales Organizations Are Able to Drive Commercial Success While Executing a Transformation」(2024))。ツールを入れること自体が目的化すると、かえって現場の負荷を増やしかねないという、この数字は2022年の燃え尽きの問題が今も形を変えて続いていることを示しています。
だからこそ、進め方の順番が大切になります。新しいツールを足す前に、まず今どこで摩擦が起きているかを棚卸しする。集計のために何時間使っているか、何種類のツールを行き来しているか、入力に迷う場面はどこか。そうして特定した摩擦を、一つずつ削れる形に設計し直す。この順番を踏まないと、11%の側ではなく、残り89%の側に入ってしまいます。
営業の現場でパイプライン管理や情報の集約を整えていく取り組みについては、営業最適化・パイプライン管理(Sales Hub)の支援ページで具体的な進め方を紹介しています。自社のdragがどこにあるか整理したい段階であれば、無料相談で現状の棚卸しからご一緒することもできます。
まとめ
営業の燃え尽きを、本人のやる気やストレス耐性の問題として捉えると、打ち手は精神論に寄りがちです。けれども、Gartnerの調査が示すのは、燃え尽きている営業担当者の多くがやる気そのものは保っているという事実でした。
辞めるかどうか、成果が出るかどうかを大きく分けていたのは、やる気ではなく業務摩擦(drag)の大きさです。摩擦の高い人ほど転職活動に向かい、成果も落ちる。この構造が分かれば、打ち手の優先順位は変わります。
やる気を引き上げようとする前に、まず日々の摩擦を特定して削る。報告のための集計、ツールの行き来、入力先の迷い。これらは根性ではなく、情報を集約する仕組みで減らせる対象です。ただし、ツールを足すこと自体が新たな摩擦になる落とし穴もあります。今ある摩擦を棚卸ししてから設計に入る、という順番こそが、燃え尽きと離職を防ぐ現実的な出発点になります。