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バイブコーディングとは何か。Vibe Codingの意味と限界、業務での線引き。

作成者: 杉江 昂|Aug 14, 2026, 6:12:39 PM

「バイブコーディング(vibe coding)」という言葉を、ニュースやSNSで目にする機会が増えました。AIに自然言語で指示を出し、生成されたコードを細かく確認しないまま「動くもの」を作っていく開発スタイルを指す言葉です。日本語で検索すると用語の紹介記事は既に数多く見つかりますが、その多くは「こういう意味の新語です」という定義の説明で終わっています。一方で、実際にAI活用を推進する立場の方が知りたいのは、その先ではないでしょうか。つまり、この進め方はどこまで信用してよいのか、自社の業務や外注先とのやり取りにどう取り入れるべきか、という実務の判断です。本稿では、造語者本人の一次情報から意味を確認したうえで、英語圏での定着、スタートアップ現場の実例、セキュリティ調査が示す限界までを順にたどり、最後に「非エンジニアの発注者やDX推進者が、業務でどこまで任せてよいか」の線引きを整理します。

目次

  1. バイブコーディングの意味と由来
  2. 造語から1年足らずで辞書の言葉に
  3. スタートアップの現場でどこまで使われているか
  4. 生成コードの45%が抱えるセキュリティの問題
  5. すべてのAI開発がバイブコーディングではない
  6. 業務でどこまで任せてよいかの線引き
  7. まとめ

バイブコーディングの意味と由来

バイブコーディングは、2025年2月に、AI研究の第一人者であるAndrej Karpathy(アンドレイ・カルパシー)氏がX(旧Twitter)への投稿で提唱した言葉です。氏はこの新しいコーディングのあり方を、「vibes(雰囲気、ノリ)に完全に身を委ね、コードの存在すら忘れる」ものだと表現しました(参照:Andrej Karpathy氏のXポスト「There's a new kind of coding I call "vibe coding"」(2025年))。

投稿の内容を要約すると、次のような進め方です。AIコードエディタに音声やチャットで「やりたいこと」を伝え、提案された変更は中身を読まずにすべて受け入れる。エラーが出たらメッセージをそのまま貼り付けて直してもらう。AIツールの性能が「良くなりすぎた」ことで、こうした進め方でもそれなりに動くものができてしまう、というのが氏の観察でした。「もはやコーディングですらない」という言い方もしています。同時に氏は、この進め方を「使い捨ての週末プロジェクトなら悪くない」と、適用範囲を限定したうえで紹介していました(参照:同上)。

ここで押さえておきたいのは、バイブコーディングの本質が「AIでコードを書くこと」ではなく、「生成されたコードを読まずに受け入れること」にある点です。この区別は後半の線引きの議論でそのまま効いてくるので、先に強調しておきます。

造語から1年足らずで辞書の言葉に

新語の多くは一時のバズワードとして消えていきますが、この言葉は英語圏で急速に定着しました。2025年11月には、英国の老舗辞書であるCollins英語辞典が「Word of the Year 2025(今年の言葉)」にvibe codingを選出しています。Collinsはこの言葉を、自然言語による指示でAIにコンピュータプログラムの作成を手伝わせること、という趣旨で定義し、AIが日常生活に浸透した1年を象徴する言葉として選んだと説明しています(参照:Collins Dictionary「Word of the Year 2025」(2025年))。

プログラミングのスラングが、造語から1年足らずで一般向け辞書の「今年の言葉」に選ばれるのは異例です。それだけこの進め方が、エンジニアの世界に閉じない広がりを持ったということでもあります。

スタートアップの現場でどこまで使われているか

では、実務ではどこまで使われているのでしょうか。象徴的な数字が、米国の著名スタートアップ支援機関Y Combinator(Yコンビネーター、以下YC)から出ています。YCのCEOであるGarry Tan(ギャリー・タン)氏は米経済メディアCNBCの取材に対し、2025年冬バッチの参加企業の約4分の1が、コードベースの95%をAIで生成しており、バッチ全体としてファンド史上最速の週10%成長を記録していると語りました(参照:CNBC「Y Combinator startups are fastest growing in fund history because of AI」(2025年))。

ただし、この「95%」という数字は文脈ごと理解する必要があります。弊社の見立てでは、この数字はライブラリ等を除いた、本来なら自分たちで書くはずだったコードについての話であり、実践しているのも技術力のある創業者たちです。少人数で速く作るための手段としてAIを選択的に使った結果であって、プログラミングを知らない人が丸投げで事業用のシステムを作った、という話ではありません。「腕のある人が使うと、ここまで生産性が変わる」という実例として読むのが正確です。

生成コードの45%が抱えるセキュリティの問題

一方で、生成されたコードを読まずに受け入れることのリスクも、定量的に明らかになってきています。アプリケーションセキュリティ企業のVeracode(ベラコード)は、100を超える大規模言語モデル(LLM)に80種類の設計済みコーディングタスクを解かせる検証を行い、生成されたコードの45%が、OWASP Top 10(Webアプリケーションの代表的なセキュリティリスクをまとめた業界標準のリスト)に関連するセキュリティテストに不合格だったと報告しました(参照:Veracode「2025 GenAI Code Security Report」(2025年))。

内訳を見ると、弱点の偏りがはっきりしています。クロスサイトスクリプティング(XSS。Webサイトに悪意あるスクリプトを埋め込まれる攻撃)への対策では86%が失敗しました。プログラミング言語別では、Javaの失敗率が72%と最も高く、Python(38%)やJavaScript(43%)と比べても目立って高い結果でした(参照:同上)。

重要なのは、これらの脆弱性を含むコードも「動いてしまう」ことです。画面は表示され、機能は動作する。だから読まずに受け入れても問題に気づけません。セキュリティ要件を明示的に指示せず、生成結果を検証もしないままのバイブコーディングは、見た目には完成しているのに中身に穴のあるソフトウェアを量産しうる、というのがこの調査の警告です。

すべてのAI開発がバイブコーディングではない

ここで、日本語の解説記事でもしばしば混同されている区別を整理しておきます。「AIを使って開発すること」と「バイブコーディング」は同じではありません。

この区別を明確にしたのが、Webフレームワーク「Django」の共同開発者として知られる著名エンジニア、Simon Willison(サイモン・ウィリソン)氏の論考です。氏は、LLMがコードを書いたとしても、人間がそれをレビューし、テストし、内容を理解しているなら、それはバイブコーディングではなく通常のAI支援開発だと指摘しました。バイブコーディングと呼ぶべきなのは、コードを読まずに受け入れる進め方に限られる。そのうえで氏は、使い捨てのプロトタイプや個人的な実験にはバイブコーディングは適しているが、本番として動かすソフトウェアにはコードレビューを前提とすべきだ、という線引きを示しています(参照:Simon Willison「Not all AI-assisted programming is vibe coding (but vibe coding rocks)」(2025年))。

つまり、AIにコードを書かせること自体は、プロの開発現場でも標準になりつつある手法であって、問題はそこではありません。分かれ目は「誰かがそのコードを読み、内容に責任を持っているか」の一点です。造語者のKarpathy氏が最初から「使い捨てプロジェクトなら」と限定していたことと、Willison氏の線引きは、実は同じことを言っています。

業務でどこまで任せてよいかの線引き

ここからは、弊社がクライアント企業のAI実装を支援するなかで整理してきた、実務の線引きを示します。エンジニアではない発注者やDX推進の担当者が判断に使うことを想定しています。

バイブコーディングで進めてよい領域

読まずに任せる進め方が向いているのは、「間違っていても被害が出ない」領域です。具体的には、画面イメージや業務フローを確認するためのプロトタイプ、アイデアの検証、自分やチーム内だけで使う使い捨てのツールなどが該当します。

この領域でのバイブコーディングの価値は、想像以上に大きいものです。従来は要件定義書と口頭説明で伝えていたものが、「見て触れる叩き台」として数時間で用意できるようになります。発注前に動くプロトタイプを作って認識を合わせられれば、要件定義の精度が上がり、後工程の手戻りが減ります。非エンジニアのDX推進者にとって、バイブコーディングはまず「要件を動くもので語るための道具」として役立ちます。

レビューを前提にすべき領域

反対に、顧客データや個人情報を扱うもの、社外に公開するもの、決済や認証が絡むもの、基幹システムに接続するものは、コードを読まずに受け入れる進め方の対象外とすべきです。先に見たVeracodeの調査が示すとおり、生成コードのほぼ半分にセキュリティ上の問題が含まれる以上、この領域では「動いているから大丈夫」は成立しません。セキュリティ要件を明示して生成させ、人間のレビューと検証工程を必ず挟む。ここはWillison氏の線引きのとおり、通常のAI支援開発として扱う領域です。

発注者として確認すべきこと

外部に開発を委託する場合、この線引きは発注者側の確認事項になります。開発会社がAIを使うこと自体は、今や速さと品質の両面でむしろ歓迎すべきことです。確認すべきは使っているかどうかではなく、「AIが書いたコードを、誰がどう検証しているか」です。レビューの体制、テストの方針、セキュリティ検証の有無。この質問に具体的に答えられるかどうかが、AI時代のベンダー選定の分かれ目になると弊社は考えています。

弊社Respectifyの実務でも、この使い分けをそのまま運用しています。たとえば業務アプリの立ち上げでは、Lovable(自然言語の指示でWebアプリを組み立てられる開発サービス)で最初に動くものを素早く作り、その後の作り込みと検証は、Claude Code(Anthropicのコーディングエージェント)でコードの中身を確認しながら進めます。CursorのようなAIコードエディタも含め、プロトタイプ段階では速度を優先し、本番に近づくほどレビューの比重を上げる、という運びです。Claude Codeを業務実装に使う具体的な方法論は別の記事で詳しく解説しています。また、AIによる開発が実際にどれくらい速くなるのかという効果の実測データは、AI駆動開発の進め方を整理した記事でまとめています。

まとめ

バイブコーディングは、2025年2月にKarpathy氏が名付け、1年足らずで辞書の「今年の言葉」になるまで定着した、実体のある変化です。YCのスタートアップ群が示したように、使い方次第で開発の速度を大きく変える力があります。一方でVeracodeの調査は、生成コードの45%にセキュリティ上の問題が含まれることを示しており、「読まずに受け入れる」進め方をそのまま業務に持ち込むことはできません。

判断の軸は一つです。バイブコーディングとは「AIでコードを書くこと」ではなく「コードを読まずに任せること」であり、任せてよいのは間違っても被害が出ない領域まで。プロトタイプや社内検証には積極的に使い、顧客データや公開システムにはレビューと検証を必ず挟む。そして外部に委託するなら、「誰がコードを読み、誰が責任を持つのか」を確認する。この線引き自体は技術の知識がなくても運用できます。むしろ、どこまでをスピード優先で任せ、どこからを検証前提にするかを決めるのは、発注者やDX推進者の仕事です。

プロトタイプ段階とレビュー前提の段階、それぞれの進め方をどこで切り替えるかは、着手前の工程設計次第で変わります。着手の順序を1枚で確認したい方には、「AI業務実装ロードマップ。PoCで終わらせない工程表」もご用意しています。

弊社では、この線引きを踏まえたAIネイティブな実装支援を、週次で動くものをお見せする準委任・月額定額の形で提供しています。プロトタイプの立ち上げから本番運用までの進め方に関心のある方は、Respectify STUDIOのサービス紹介をご覧ください。個別のご相談は無料相談へお気軽にどうぞ。