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営業がCRMに入力しないのは、設計が悪いから。

CRMを導入したのに、営業がほとんど入力しない。ステージは商談中のまま止まり、活動履歴は空欄で、結局は上司への報告がExcelと口頭に逆戻りする。この状況を前にすると、つい「営業の意識が低い」「入力を徹底させよう」という話になりがちです。けれども、入力されないCRMの大半は、現場のモラルではなく設計の問題です。データ品質ツールを提供するValidity社が2025年に公表した調査では、CRM利用者の76%が「自社のデータは半分以上が不正確または不完全」と回答し、さらに37%が「上司が聞きたがる内容に合わせて日常的にデータをでっち上げている」と答えています。徹底させた結果が、空欄かでっち上げか、どちらかなのです。本稿では、入力を「させる」発想から「入力されている状態をつくる」発想へどう切り替えるか、HubSpotを例に設計の勘所を整理します。

入力を意志に頼る設計は、必ず破綻する

まず押さえたいのは、入力率の問題は気合いでは解けないという前提です。Validity社が2025年7月に公表した「The State of CRM Data Management in 2025」(米国・英国・オーストラリアのCRM利用者・管理者602名対象)は、CRMデータの品質が広く崩れている実態を示しています。回答者の76%が「自社のCRMデータは半分以上が不正確または不完全」と認め、37%が「データ品質の問題を直接の原因として売上を失った」と回答しました。同社はCRM向けのデータ品質ツールを売るベンダーであり、問題を大きく見せる動機がある点は割り引く必要がありますが、それでも数字は無視できません。(参照:Validity「State of CRM Data Management in 2025 レポート公表」(2025)

この調査でとりわけ示唆的なのが、スタッフの37%が「経営の期待に応えるため、日常的にデータを作っている」と答えた点です。入力を厳しく求めるほど、現場には二つの逃げ道が生まれます。空欄のまま放置するか、それらしい数字を入れて辻褄を合わせるか。どちらも「入力を徹底させる」というマネジメントの帰結です。意志に依存した設計は、人が忙しくなった瞬間に破綻します。そして営業は、構造的に常に忙しい。だからこそ、入力されるかどうかを個人の意志に委ねない設計が要るのです。

営業は「売る時間」より「埋める時間」に追われている

次に、なぜ入力が後回しになるのかという構造です。営業の一日は、想像以上に売る以外の作業で埋まっています。Salesforce社の「State of Sales(第6版)」(2024年)によれば、営業担当者が実際に「売る」ことに使っている時間は週全体の3割前後にとどまり、残りの約7割は管理業務やデータ入力、社内会議、ツール間の移動に消えています。さらに、一件の商談をクローズするまでに平均で約10種類のツールを横断するとも報告されています。Salesforce社はCRMベンダーであり自社製品の文脈での調査ですが、傾向としては独立系の調査とも整合します。(参照:Salesforce「State of Sales, 6th Edition」(2024)

中立の調査会社による数字も似た方向を指しています。Forrester社の営業活動に関する調査は、営業が週におよそ2日分を事務・管理業務に費やし、その定型業務が39カテゴリにも分類されることを示しています。週の4割近くが、売ることと直接関係しない作業に取られている計算です。(参照:Forrester「How Reps Spend Their Time」

この構造の上で「CRM入力も忘れずに」と一項目を足せば、それは10種類目、11種類目の作業として、最も優先度の低い場所に積まれます。商談を一件でも多く前に進めたい営業にとって、後でまとめて入力する作業は、永遠に来ない「後で」に送られる。入力されないのは怠慢ではなく、優先順位の力学として当然の帰結なのです。

「入力させる」より「入力されている状態をつくる」

ここからはRespectifyの実務視点です。私たちが入力率の相談を受けたとき、最初に提案するのは入力ルールの厳格化ではなく、その逆、つまり「人が手で入力する量を減らす」方向の設計です。営業が能動的に入力しなくても、活動の事実が自動でCRMに記録されていく状態をどうつくるか。発想の起点はここにあります。

日本のBtoB企業でよく見るのが、CRMとは別にExcelの案件管理表が生き続け、CRMは上司報告のときだけ開く「報告用の二重管理」になっているパターンです。営業は同じ情報を二度書く羽目になり、当然どちらかが形骸化します。これを解く第一歩は、日々のメールとカレンダーをCRMに自動連携させることです。たとえばHubSpotであれば、GmailやOutlookと接続して顧客とのメール送受信を自動でログに残し、商談相手とのミーティングをカレンダー連携で自動記録できます。「誰と、いつ、どんなやり取りをしたか」を手で書き写す必要が消え、入力という作業そのものが業務の副産物として自動的に積み上がります。

二重管理をやめてメールとカレンダーを連携させるだけで、活動履歴の入力負荷は大きく下がります。営業に求めるのは「記録すること」ではなく「いつもどおり仕事をすること」になり、その仕事の痕跡が自動でデータになる。これが「入力されている状態をつくる」ということです。

入力項目は意思決定から逆算して最小化する

自動連携と並んで効くのが、手入力が必要な項目を徹底的に絞る設計です。逆説的ですが、CRMの項目を網羅的に「全部埋めさせよう」とする運用ほど、未入力を量産します。埋める項目が20も30もあれば、営業はそのどれもを後回しにするからです。前述のForrester社の調査が示すとおり、営業はただでさえ週2日分を事務作業に取られています。そこに重い入力フォームを足せば、回避されるのは目に見えています。

現実的なのは、商談ステージを一段進めるために本当に必要な項目だけを必須にする設計です。具体的には、必須プロパティを3項目から5項目程度に絞り、ステージの移行時にその項目が埋まっていなければ次へ進めない「ゲート」として機能させます。HubSpotであれば、ディールステージごとに必須プロパティを設定し、商談を前に動かす動作と入力を一体化できます。営業は次のステージに進めたい一心で、その瞬間に必要な最小限だけを入力する。入力が「別作業」ではなく「商談を進める動作の一部」になります。

何を必須にするかは、項目の網羅性ではなく意思決定から逆算して決めます。順番はこうです。事業として下したい意思決定は何か(たとえば四半期の着地見込み、失注理由の傾向)、その判断にどの項目が要るか、そのうち自動取得できる項目はどれか。自動で取れるものはメール連携やフォームに任せ、どうしても人の判断が要る項目だけを手入力の必須に残す。この順で絞ると、必須項目は驚くほど少なくなります。そして残った数項目だからこそ、営業も入力します。

Validity社の調査では、45%が「自社のCRMデータはAI活用の準備ができていない」とも答えています。AIに読ませる前提でデータをそろえようとするほど、つい「あれもこれも」と項目を増やしたくなりますが、入力されないデータが増えてもAIの精度は上がりません。入力負荷を上げずに必要な項目だけを確実に埋める設計のほうが、結果としてAIに渡せるデータに近づきます。なお、すでに入っているデータの汚れの片付けについては、別稿「AIの前にCRMの汚れを片付ける」で扱っています。

入力されるCRMの設計、すなわちメールとカレンダーの自動連携、ステージごとの必須プロパティ設計、ディール作成の自動化といった「埋まる仕組み」の構築は、RespectifyではCRMと商談データをつなぐ営業最適化の支援の中心的なテーマの一つです。新規にCRMを入れる場面だけでなく、入力されずに止まっているCRMの再設計から入るケースも少なくありません。

入力を商談の動線の上に置く

設計のもう一つの肝は、入力を商談の流れそのものの上に乗せることです。入力が「商談が終わったあとに別途やる事務作業」になっている限り、それは永遠に後回しにされます。逆に、営業がいつもやっている動作のなかに記録が組み込まれていれば、入力は意識されないまま完了します。

具体的には、よく送る提案メールやフォローメールをテンプレート化し、送信した瞬間に活動として自動記録する。一定の間隔で送る連絡をシーケンス(自動配信のステップ)に組み、送信履歴を自動で残す。通話やオンライン会議の記録を自動でログに紐づける。問い合わせフォームの送信をトリガーにディールを自動作成する。HubSpotにはこうした仕組みが標準で備わっており、営業が「送る」「話す」「会う」という本来の行動を取るたびに、その事実がデータとして積み上がります。

これは日本の営業現場に根づいた日報文化の置き換えでもあります。一日の終わりに何件訪問して誰と何を話したかを文章で書く日報は、書く側にとって負担が重く、読む側にとっても集計しづらい。同じ情報を、メールやカレンダー、通話の自動ログという構造化されたデータとして取得できれば、日報という別タスクをなくしながら、上司が見たい活動量も商談の進捗も、より正確に把握できます。報告のために書くのではなく、仕事をすれば報告データができている状態です。商談を前に進める動線の上に入力を置く、この一点が、定着するCRMと形骸化するCRMの分かれ目になります。営業の事務時間そのものを減らす論点は、別稿「営業の事務時間をどう取り戻すか」もあわせてご覧ください。

まとめ

  • Validity社の2025年調査(米英豪のCRM利用者602名)では、76%が「自社CRMデータの半分以上が不正確または不完全」、37%が「上司の期待に合わせて日常的にデータをでっち上げている」と回答。入力を徹底させた結果は空欄かでっち上げで、意志に頼る設計は破綻します。
  • Salesforce社の調査(2024年・第6版)では営業が売る時間は週の3割前後で、約7割が管理業務やツール移動。Forrester社の調査でも週2日分を事務に費やすとされ、CRM入力は最も後回しにされる作業になりがちです。
  • 解は入力ルールの厳格化ではなく、メールとカレンダーの自動連携で手入力そのものを減らすこと。日本に多い「Excelとの二重管理」をやめ、いつもの仕事の痕跡が自動でデータになる状態をつくります。
  • 入力項目は意思決定から逆算して最小化し、必須は3〜5項目に絞ってステージ移行のゲートにします。全項目を埋めさせる運用ほど未入力を生みます。
  • 入力を商談の動線の上に置き、テンプレート送信・シーケンス・通話やミーティングの自動ログで、送る・話す・会う行動がそのまま記録になる設計にします。日報文化は構造化データへ置き換えられます。

入力されないCRMの原因は、たいてい現場の意識ではなく設計にあります。自社のCRMが「埋まる設計」になっているか確認したい場合は、無料相談からお気軽にご相談ください。

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