HubSpotを導入すると決めた、あるいは契約が済んだ。ここから先に待っているのは「どのプランを買うか」ではなく「社内でこのプロジェクトをどう動かすか」という、地味だが成否を分ける工程です。検索すると「HubSpot 導入 進め方」といったキーワードで、公式の制度や料金の解説記事が多く出てきますが、そうした制度面の話は契約条件や時期によって変わるうえ、実際にプロジェクトが立ち上がったあと社内で何が起きるかとは、あまり関係がありません。本稿では、公式の仕組みを説明するのではなく、支援現場で実際にHubSpot導入プロジェクトに関わってきた実務知見をもとに、着手前に決めておくべきこと、体制の組み方、着手の順番、つまずきやすいポイント、そして最終的に自社の運用へ引き継ぐ設計までを、プロセスとして整理します。
着手する前に、社内で決めておくこと
プロジェクトが動き出してから最初につまずくのは、たいてい「決めていなかったこと」に後から気づく場面です。
一つ目は、誰が最終的に意思決定するのかです。HubSpotの設定は、営業のステージ定義やマーケティングのリード基準など、部署をまたぐ判断の連続になります。現場担当者だけで進められる範囲と、部門長の合意が要る範囲があらかじめ分かれていないと、途中で「これは誰が決めていいのか」が毎回議論になり、プロジェクトが止まります。着手前に、誰が何を決められるのかの線引きを済ませておくことが、後の停滞を防ぎます。
二つ目は、いまの業務プロセスの言語化です。問い合わせから商談化、成約に至るまで、いまの流れが実際どうなっているのかを、担当者の頭の中からいったん紙やドキュメントに出します。ここを飛ばして先にツールの設定画面を開くと、HubSpotの標準的な型に業務を無理やり合わせることになり、現場が使いにくいと感じる原因になります。CRMという道具そのものの位置づけから整理し直したい場合は、別稿「CRMとは何か」もあわせてご覧ください。
三つ目は、いまある顧客データがどこに、どんな状態で散らばっているかの棚卸しです。エクセル、名刺管理ツール、担当者の記憶、旧システム。これらを全部きれいに移すことを最初のゴールにすると作業量が膨らみすぎるため、「何を必ず持ってくるか」「何は後回しにするか」を先に線引きしておくと、後工程が軽くなります。CRMデータの正確性や完全性に課題を抱える組織は珍しくなく、ある調査では回答企業の76%が自社CRMデータの半分以下しか正確かつ完全でないと回答しています(参照:Validity「The State of CRM Data Management in 2025」(2025年))。着手前の棚卸しは、この状態を移行後まで持ち越さないための工程です。
四つ目は、何をもって導入が成功したと言えるのかの合意です。「HubSpotを入れる」自体はゴールにならず、「取引の状況が経営会議で一目で分かる」「問い合わせへの対応が漏れなく追える」といった、業務側の状態変化で成功を定義しておくと、途中で優先順位に迷ったときの判断軸になります。
プロジェクト体制をどう組むか
体制で最初に決めるべきは役割の数ではなく、役割の重なりのなさです。
推進の中心を担うプロジェクトオーナーを一人に絞ります。複数部署の代表が対等な立場で進めると、意思決定のたびに全員の合意を取りにいくことになり、スピードが落ちます。オーナーは決裁権そのものを持つ必要はありませんが、日々の判断を一次的に引き受け、経営層への確認が必要な論点だけをエスカレーションする役回りです。
そのうえで、現場代表を最低一人はプロジェクトに正式に組み込みます。営業やカスタマーサポートの現場が、設定が固まったあとに初めて画面を見せられる進め方だと、実際の業務動線とずれた仕様ができあがりやすくなります。設計の段階から現場の声を反映させる体制にしておくことが、後の定着に直結します。実際、CRMの選定・設計段階からユーザー自身を関与させ、意見を反映させることが導入後の定着を後押しするという指摘もあります(参照:HubSpot Blog「CRM adoption: 10 tips to get your sales team on board」(2026年))。
外部の支援会社やHubSpotの担当者を交える場合は、提案の段階で会話した相手と、実際に設定を担当する相手、そして導入後に運用の相談を受ける相手が、同じ人物なのか、途中で引き継がれるのかを、契約前に確認しておくと安心です。提案時の説明と実装段階の理解にずれが生じる場合、多くはこの担当の切り替わりが背景にあります。外部パートナーをどう見極めるかは、別稿「HubSpot導入支援パートナーの選び方」で詳しく扱っています。
最後に、意思決定のための定例会議を、プロジェクト期間中は短い間隔で固定します。週次で進捗と論点を確認する場を先に押さえておくと、個別のやり取りで論点が散らばるのを防げます。
着手の順番をどう組み立てるか
順番を間違えると、あとから作り直す量が増えます。実務では、おおむね次の順で進めると手戻りが少なくなります。HubSpot自身も、導入時のタスクを定義済みのチェックリストとして構造化し、進捗とオーナーシップを可視化する機能を公式に用意しており(参照:HubSpot Knowledge Base「Manage onboarding to-do lists with checklists」(2026年8月時点))、着手順を型として明確にすること自体が、ツール側でも前提とされています。
まず、業務プロセスと成功の定義を最終化します。ここが固まっていない状態で設定に入ると、あとで「そもそもこのステージ構成でよかったのか」という問いに戻ることになります。
次に、移行するデータの整理です。項目の名寄せ、重複の解消、必須項目の絞り込みをこの段階で行います。データが汚れたまま設定だけ進めると、綺麗な画面に汚いデータが入る状態になり、現場の信頼を失います。
そのうえで、取引のステージやパイプライン、プロパティといった基本設定に入ります。ここは業務プロセスの言語化がすでに済んでいれば、比較的スムーズに進む工程です。
基本設定のあとに、通知や自動化などのワークフローを組みます。最初から複雑な自動化を狙わず、日々の運用で確実に使う一つか二つのワークフローに絞って着手するほうが、動作確認もしやすく、現場への説明も簡単になります。ワークフローの組み方の基本は、別稿「HubSpotワークフローの作り方」で扱っています。
最後に、全社展開の前に、限定した範囲でのテスト運用を挟みます。一つのチーム、あるいは一部の取引だけで実際に運用してみて、入力のしやすさや抜けを確認してから全体に広げると、展開後の手直しが少なくなります。
進行中につまずきやすいポイント
支援現場で繰り返し見かけるつまずきは、いくつかのパターンに集約されます。
一つ目は、着手前に決めきれなかった論点が、実装の途中で持ち上がることです。ステージの定義や必須項目の範囲について、着手前の合意が曖昧だと、設定作業のたびに「ここはどうしましょう」という確認が発生し、仕様が二転三転します。前段の「着手前に決めておくこと」を丁寧にやるほど、この揺れは減ります。
二つ目は、現場を巻き込まないまま設計を進め、リリース直前や直後に初めて画面を見せることです。使う本人たちが検討過程に関与していないと、たとえ設計として合理的でも「自分たちの業務と合っていない」という感覚が先に立ち、入力が定着しません。現場担当者が「このCRMは自分の仕事のどの問題を解決してくれるのか」を実感できないまま進めると、抵抗が生まれやすいという指摘もあります(参照:HubSpot Blog「CRM change management: A practical guide for leaders」(2026年))。
三つ目は、機能を網羅しようとして設定を複雑にしすぎることです。使える機能が多いツールほど「全部きちんと設定しなければ」という気持ちが働きますが、最初から欲張ると、確認すべき項目が増えて着手が遅れ、現場も覚えることが多くなって定着が遠のきます。入力の設計そのものをどう最小化するかは、別稿「入力されている状態をどうつくるか」で掘り下げています。
四つ目は、テスト運用を飛ばして一気に全社展開することです。限定範囲での試運転を省くと、展開後に初めて見つかる不具合や業務との齟齬が、全社的な混乱として一気に表面化します。
こうしたつまずきの多くは、ツールの機能不足ではなく、合意形成と進め方の設計に起因します。実際、CRM導入の失敗は技術的な機能不足よりも、ユーザーの巻き込み方や変革の進め方といった人的側面に起因することが多いと指摘されています(参照:HubSpot Blog「CRM change management: A practical guide for leaders」(2026年)、HubSpot Blog「CRM adoption: 10 tips to get your sales team on board」(2026年))。この構造をより広い視点で分析した内容は、別稿「『CRMの過半数は失敗する』は本当か」で扱っています。
内製運用への引き継ぎをどう設計するか
プロジェクトには終わりがありますが、運用には終わりがありません。この違いを意識しないまま進めると、立ち上げに関わった担当者が異動や退職をした瞬間に、運用が誰の手にも渡らないまま止まります。
引き継ぎで最初に用意すべきは、設定の意図を残したドキュメントです。「この項目はなぜ必須にしたのか」「このワークフローは何のために動いているのか」を、操作手順とは別に残しておくと、後任者が仕様を変更するときに、意図を壊さずに手を入れられます。
次に、運用オーナーを個人名で決めます。プロジェクトが終わった時点で「誰かが見てくれるはず」という曖昧な状態のまま終わらせず、日々の設定変更や入力ルールの見直しを担う担当者を明確にします。
そのうえで、月次や四半期といった間隔で、運用状況を振り返る場を常設します。入力が想定どおり続いているか、当初決めた成功の定義に近づいているかを、定期的に確認する仕組みがあると、プロジェクト終了後も改善が止まりません。立ち上げ直後の90日で具体的に何を整えるべきかは、別稿「最初の90日で何を整えるべきか」に詳しくまとめています。
外部の支援を受けながら進める場合も、この引き継ぎの設計そのものを、プロジェクトの成果物の一つとして最初から契約に含めておくと、支援が終わった時点で運用が宙に浮くという事態を避けられます。Respectifyでは、業務プロセスの整理から着手順の設計、そして内製運用への引き継ぎまでを一貫して伴走する形で、HubSpot導入支援を提供しています。
まとめ
- HubSpot導入は契約した瞬間に完了するものではなく、社内で動かす一つのプロジェクトです。着手前に、意思決定者・業務プロセス・データの現状・成功の定義を決めておくと、後の停滞を防げます。
- 体制はプロジェクトオーナーを一人に絞り、現場代表を設計段階から巻き込みます。外部の支援を使う場合は、提案・実装・運用の担当が同じか引き継がれるかを事前に確認します。
- 着手の順番は、業務プロセスの言語化とデータ整理を先に済ませ、基本設定、限定的なワークフロー、テスト運用という流れで進めると手戻りが少なくなります。
- つまずきの多くは、機能不足ではなく合意形成の欠落です。着手前の論点の積み残し、現場を巻き込まない設計、機能の網羅志向、テスト運用の省略に注意します。
- プロジェクトには終わりがあっても運用には終わりがありません。設定意図のドキュメント化、個人名での運用オーナーの指名、定期的な振り返りの場を、引き継ぎの一部として最初から設計します。
本稿で紹介した着手前の準備や体制の組み立てを、実際に自社のプロジェクトとして計画に落とし込みたい方には、「費用・期間・体制を、着手前に固める。HubSpot導入プロジェクト計画テンプレート」もあわせてご活用ください。
HubSpot導入プロジェクトをどう進めればよいか、着手の段階から相談したい場合は、無料相談からお気軽にお寄せください。


