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パートナーセールス

パートナーセールスとは?チャネルセールス・代理店営業との違いと、日本の商流で機能する型の選び方。

代理店経由の売上をもっと伸ばせと経営会議で言われた。あるいは、直販だけでは頭打ちが見えてきたので、新しい販売網をゼロから立ち上げることになった。立場は違っても、最初にぶつかる問いは同じです。「パートナーセールス」とは何を指し、自社が今やろうとしていることとどう違うのか。パートナーセールス、チャネルセールス、代理店営業、似た言葉が並ぶ割に、検索しても定義が微妙にずれていて腹落ちしません。

製造業の営業企画部長であれば、代理店とのバッティングが年に数回燃え、そのたびに部長間の調整で消耗した経験があるはずです。SaaSのパートナー責任者であれば、紹介料率も案件登録の仕組みも、同業他社のパートナー制度ページを見よう見まねで組み立てているという心当たりがあるかもしれません。どちらも根っこにあるのは同じ疑問で、「パートナーセールスという型を、自社はどこまで理解して運用しているのか」です。この記事では、パートナーセールスの定義を直販との違いから整理したうえで、紹介・リセラー・OEMといった型の全体像、日本特有の問屋・特約店・販売店会という商流の事情、そして立ち上げの際に最初に詰めるべき論点までを順番に解説します。

パートナーセールスとは何か

パートナーセールスとは、自社の営業チームが顧客に直接販売するのではなく、外部の企業(パートナー)を介して製品やサービスを届ける販売モデルを指します。英語のpartner salesの訳語で、channel sales(チャネルセールス)やindirect sales(間接販売)とほぼ同じ現象を指す言葉として使われます。

HubSpotが公開しているチャネルセールスの解説記事は、これを「企業が自社ではなく第三者を通じて製品やサービスを販売・流通させるモデル」と定義し、リセラーやアフィリエイト、卸売業者、コンサルタント、VAR(付加価値再販パートナー)など複数の形態を含む概念だとしています(参照:HubSpot「Channel Sales: A Complete Guide」(2025年5月更新))。

代理店営業とは、平たく言えば、自社の商品を代理店や特約店に扱ってもらい、その顧客基盤を通じて販売していく営業活動全般を指す、日本語としてもっとも馴染みのある呼び方です。「パートナーセールス」「チャネルセールス」「代理店営業」という3つの言葉は、厳密には出自も強調点も異なります。パートナーセールスは米国のSaaS業界で使われ始めた、パートナーとの関係そのものに軸足を置いた呼び方です。チャネルセールスは販売の経路(チャネル)に着目した呼び方で、こちらのほうが歴史は古く、業種を問わず使われてきました。代理店営業は、日本の製造業やメーカーが伝統的に使ってきた呼び方で、代理店や特約店を通じた営業活動そのものを指します。業界によってはさらに細かい呼び分けもあり、電子部品業界では「特約店」、化学・素材業界では「特約商社」、IT業界では「販売パートナー」と、扱う商材の性質に応じて呼び名が変わってきました。呼び方の由来は違っても、指している中身は「自社が直接売らない販売」という一点で共通しています。本稿ではこれらをまとめて「パートナーセールス」と呼びます。なお、パートナーセールスと呼べるのは大企業だけではありません。特約店や代理店がまだ数社しかいない段階でも、直販とは別の経路として意図的に位置づけて運用しているのであれば、それは立派なパートナーセールスです。パートナー数の多寡よりも、直販と切り分けて設計しているかどうかが、呼び方の境目になります。

なぜ今、この呼び方があらためて問い直されているのか。背景には、直販だけで成長を続けることの限界があります。国内市場が広がりにくくなった製造業にとって、新しい直販部隊を地域ごとに採用し育てるコストは以前より重く感じられますし、少人数で立ち上がったSaaS企業にとっては、直販の営業人員を増やす前に既存の販売網を借りられるパートナーセールスのほうが資金効率に優れます。加えて、代理店やパートナーの側も、扱う商材を一社に絞らず複数のベンダーと組む動きが進み、選ばれる側の企業がパートナーとの関係を「なんとなくの取引先」から「設計すべき仕組み」へと捉え直す必要に迫られています。製造業の営業企画部門であれば、経営層から「代理店経由の売上もDXしろ」と号令がかかる一方で、代理店にシステムを使わせる具体的な方法は誰も教えてくれない、という状況がまさにこれにあたります。

直販との違い、優劣ではなくトレードオフ

パートナーセールスを理解する近道は、直販との対比です。HubSpotの同記事は、直販とチャネルセールスの違いについて「直販では企業が消費者に直接販売するのに対し、チャネルセールスでは第三者を通じて販売する」と整理しています(参照:HubSpot「Channel Sales: A Complete Guide」(2025年5月更新))。

直販パートナーセールス
顧客との接点自社の営業が直接持つパートナーが持つ場合が多い
立ち上がりの速さ採用と教育に時間がかかるパートナーの既存顧客基盤にそのまま乗れる
利益率中間マージンがない分高いパートナーへの手数料の分下がる
必要な投資自社の営業体制への継続的な投資制度設計とパートナー支援への投資
顧客データの一次情報自社が持つパートナー側に残ることが多い

どちらが優れているという話ではなく、両者はトレードオフの関係にあります。直販は顧客接点を自社で持てる分、学習と改善のサイクルが速く回りますが、地域展開や新規業界への参入は営業体制をゼロから作る負荷を伴います。パートナーセールスは、すでに地域や業界に根を張ったパートナーの信頼と顧客基盤をそのまま借りられる分、価格の主導権や顧客データの一次情報が自社の手を離れます。

この違いは、二つのペルソナでそれぞれ違う形で現れます。地方の特約店網をすでに持つ製造業メーカーにとっての課題は、パートナーセールスを新しく始めることではなく、すでに走っている関係を「見える化」し、直販との縄張りを整理し直すことです。一方、直販から立ち上げた国産SaaS企業にとっての課題は、ゼロから制度をつくり、最初のパートナーとの関係を型として固めることにあります。同じ「パートナーセールス」という言葉でも、向き合う出発点はまったく違います。

実務では、直販とパートナーセールスを併用する「ハイブリッド型」が大半です。重要なのは、どの顧客セグメントや地域を直販が担い、どこをパートナーに任せるかという線引きを、後付けではなく最初の設計判断として決めておくことです。この線引きの具体的な考え方は「直販と代理店、どちらに任せるか」で詳しく整理していますので、あわせてご覧ください。

パートナーセールスの型、紹介・リセラー・OEMは何が違うのか

パートナーセールスと一括りに呼んでも、パートナーが果たす役割はまったく異なります。ここを曖昧にしたまま契約や条件を決めてしまうと、後から役割の重複や、直販とパートナーの間の遠慮のない衝突が発生します。

SaaSのパートナーシップに詳しい米国のベンチャーキャピタル、ベッセマー・ベンチャー・パートナーズは、チャネルパートナーを次の5類型に整理しています(参照:Bessemer Venture Partners「The GTM guide to building SaaS channel partnerships」(2023年))。

  • 紹介パートナー:見込み客を推薦する役割を担う
  • リセラー:製品を仕入れ、自社の名前で顧客に販売する
  • VAR(付加価値再販パートナー):製品に独自の開発やカスタマイズを加えて再販する
  • サービスパートナー:導入や運用の支援を担うが、再販は行わない
  • マーケットプレイス:製品や連携を掲載し、販売の機会をつくるオンライン基盤

この5類型を一つずつ覚えるより実務で効くのは、「誰が契約主体で、顧客が誰のブランドを見ているか」という一点で整理することです。紹介パートナーは商談の入口をつくるだけで、契約書に名前が載るのは自社です。リセラーは自社の名前で売るため、価格の設定も請求も先方の裁量に委ねられます。この違いが、価格統制のしやすさ、サポートの一次窓口をどちらが持つか、解約時の責任の所在まで、制度設計のほぼすべてを左右します。

この整理に、代理店営業の文脈でよく登場するもう一つの型を加える必要があります。OEM(相手先ブランド供給)です。パートナー関係管理のプラットフォームを提供するPartnerStackは、OEMパートナーを「サードパーティのソフトウェアやソリューションに組み込んで使える、オリジナルの技術を開発する企業」と説明しています(参照:PartnerStack「OEM Partners」(確認日2026-07-29))。

リセラーが自社の製品をそのままの姿で右から左へ動かすのに対し、OEMパートナーは相手の技術を自社製品の内部に組み込みます。エンドユーザーの目には、多くの場合OEMパートナー自身のブランドしか映りません。同じ「間接販売」でも、ブランドが誰の名前で顧客の前に立つかという一点で、契約・価格・サポート体制の設計はまるで変わってきます。6つの型を、契約主体・価格の主導権・顧客への見え方の3軸で並べると、次のように整理できます。

契約主体価格の主導権顧客への見え方
紹介パートナー自社(ベンダー)自社自社ブランドがそのまま見える
リセラーパートナーパートナー寄りパートナーが窓口になる
VARパートナーパートナー寄り自社製品にパートナーの付加価値が乗って見える
サービスパートナー自社(ベンダー)自社自社ブランドに導入支援が付随して見える
マーケットプレイス自社(ベンダー)自社基盤運営者の中で自社製品として見える
OEMパートナーパートナーパートナーのブランドのみが見える

日本の製造業で「代理店」「特約店」と呼ばれる関係の多くはリセラー型に近く、OEMは主に部品・コンポーネントメーカーや、ソフトウェアを他社製品に組み込むケースで登場します。一社のパートナーセールスがこの6類型のどれか一つだけで完結することはむしろまれで、立ち上げ期は紹介パートナーで商談の動線を確かめ、関係が育ったパートナーにだけリセラー契約を用意する、という段階的な組み合わせが現実的です。

自社にとってどの型を選ぶべきか

型を選ぶ判断基準は、突き詰めると4つに整理できます。第一に商材の複雑さです。説明や設定に専門知識が要る商材ほど、紹介だけでは商談が決まらず、導入まで伴走するサービスパートナーやVARが必要になります。第二にアフターサポートの重さです。導入後も保守や部品供給が続く商材は、顧客に一番近い場所にいるパートナーが窓口を持つリセラーやOEMのほうが実務に合います。第三に価格弾力性です。値引きの裁量をパートナーに渡してよい商材か、価格を自社で統制し続けたい商材かで、契約主体をどちらに置くべきかが変わります。第四にパートナー候補の力量です。単独で商談を仕上げるだけの営業力や与信管理能力があるかどうかが、紹介止まりでよいのか、リセラー化まで任せられるのかを分けます。計測機器や産業機械のような、導入後の保守が長く続く商材を扱うメーカーはリセラーやOEMに寄りやすく、逆に短いトライアルで契約が決まるSaaSは、紹介パートナーを厚く持つ設計から始めやすいという傾向があります。同じ相手が二重の顔を持つことも珍しくありません。地方の計測機器代理店が、日常的な販売はリセラーとして行いながら、大型案件の据付や調整だけはメーカーのサービスパートナーとして動く、といった具合です。すでにいる代理店をこの4つの基準で棚卸しすると、「実はリセラーとして扱ってきたが、実態はサービスパートナーに近い」といったズレが見つかることも少なくありません。既存のパートナーを再整理する場合ほど、型を先に決め直す価値があります。自社がどの型を組み合わせるべきか、手数料の相場観まで含めた設計の考え方は「SaaSのパートナー制度、何から設計するか」で扱っています。

日本の商流に特有の問屋・特約店・販売店会という事情

パートナーセールスという言葉自体は米国発ですが、日本の商流にはこの概念だけでは説明しきれない、独自の階層構造があります。海外のパートナーセールスが「ベンダーとパートナーの1対1の関係」を基本形とするのに対し、日本の製造業では、メーカーから問屋(卸売業者)、そこからさらに特約店、末端の販売店へと、間に複数の層が連なる多段階の流通が珍しくありません。日本の卸売業は伝統的に、メーカーから直接仕入れる一次卸、地域や業種に特化した二次卸、小売や販売店に近い最終卸というように、複数の階層に分かれて発達してきたと言われます。この構造を理解しないまま海外のパートナーセールスの型をそのまま持ち込むと、「誰が本当の顧客との接点を持っているのか」が最後まで分からないまま制度設計を進めることになります。米国のパートナーセールスの教科書がベンダーとパートナーの1対1の関係を前提に案件登録や手数料の設計を語るのは、両者の間に基本的に他の階層がいないからです。日本の中堅メーカーが同じ設計思想をそのまま輸入すると、特約店の先にいる二次店や販売店の存在が抜け落ち、制度が効く範囲が一次店止まりになってしまいます。

日本の流通業に詳しいJMR生活総合研究所は、日本のメーカーが採用してきた「流通系列化」について、「メーカーが自社商品を販売しやすくするために卸売業者や小売業者など流通業者に関係の強化を求め、他メーカーに対する競争上の優位性を獲得するため、組織化すること」と説明しています。価格や販売の管理がしやすくなるだけでなく、生産から販売までの基盤を強力に築け、競合や新規参入企業が市場に入りにくくなる利点があったため、特に家電や化粧品業界で広く採用されてきました(参照:JMR生活総合研究所「流通系列化」(確認日2026-07-29))。

問屋や特約店が今も存在する理由

多段階の流通は、非効率なだけの遺物ではありません。問屋や特約店が担ってきた機能として一般に指摘されるのは、与信管理(小口の販売店ひとつひとつの支払い能力をメーカーに代わって引き受けること)、物流の集約(広い地域に散らばる販売店への配送をまとめること)、そして地域や商圏に根ざした顧客との関係維持の3つです。メーカー1社が全国の小さな販売店と直接取引しようとすれば、与信管理と配送だけで手一杯になります。問屋や特約店を挟むことで、メーカーは供給に、末端のパートナーは地域の顧客対応に、それぞれ役割を集中できます。パートナーセールスの設計でこの機能を無視すると、「特約店を飛ばして直接契約したい」という発想が、与信や物流の負担を丸ごと自社に引き取ることを意味すると気づかないまま進んでしまいます。

この系列化の中核にあるのが特約店制度です。特約店とは、メーカーと卸売業者との間で特定の契約を結び、商品の販売経路を拡大していく、日本ならではの流通の仕組みです。単なる卸売業者と違い、リベート(売上に応じた割戻金)を受け取れる一方、他社製品を扱わないといった条件を守ることが求められます(参照:マネーフォワード「特約店制度とは」(確認日2026-07-29))。実務上は、メーカーと直接取引をする場合が多く、価格についてもメーカーの意向を踏まえた運用を求められることが一般的で、代理店よりもメーカーの支配力が強く働く関係だと言えます。もっとも、前出のマネーフォワードの解説が指摘するとおり、量販店やネット通販が充実した現在では、特約店というかたちにかつてほどの独占的な魅力はなくなりつつあります。特約店側で他業態への転換や取扱ブランドの見直しが進んでいるという動きも聞かれます。

さらにメーカーは、こうした特約店や販売店を「販売店会」というひとつの組織にまとめ、定例会や表彰、共同での販促活動を通じて関係を維持してきました。家電業界の系列店網はその典型例です。パートナーセールスの語彙で言えば「パートナーエコシステムの運営」そのものですが、日本ではシステムではなく、対面の会合と人間関係によって何十年も回されてきました。年に一度の総会で表彰状を渡し、新製品の勉強会を開き、懇親会で世間話をする。この積み重ねが、案件情報が自然に上がってくる土壌を作ってきたわけです。もっとも、対面の会合だけに頼った関係維持は、担当者の異動や引退によって簡単に途切れます。総会の出席率が落ち、勉強会がオンライン開催に置き換わるにつれ、これまで人間関係が肩代わりしてきた「情報が自然に集まる仕組み」を、別の形で作り直す必要に迫られているメーカーが増えています。

この構造は、パートナーセールス統括者に固有の悩みを生みます。一次店(特約店)までは取引の履歴が見えても、その先の二次店や末端の販売店が誰にどう売っているのかは、報告してもらわなければ分かりません。しかも販売店会という関係の多くは、メーカー側の担当者と特約店側の経営者や番頭格の個人的な信頼の上に成り立っており、世代交代が進むと「メーカーに情報を上げる文化」そのものが薄れていきます。先代の社長とは月に一度電話で世間話をする間柄でも、後を継いだ二代目とは名刺交換すらまだ、というのは決して珍しい話ではありません。この状態で月次のExcel報告に頼り続けると何が起きるかは、「代理店管理とエクセルの限界」で具体的に解説していますので、あわせてご覧ください。

パートナーセールスを立ち上げるとき、最初に詰めるべき3つの論点

パートナーセールスを新たに立ち上げる場合も、すでにある代理店網や特約店網を仕組みとして再整理する場合も、最初に詰めるべき論点は共通して3つあります。制度設計、案件登録、見える化です。順番も重要で、システムやツールの選定はこの3つが固まった後に来ます。

どこから手を付けるべきかを考える前に、もう一つ決めておきたいことがあります。「誰と最初に組むか」です。声をかけやすい相手、昔からの付き合いがある相手を選びたくなりますが、そのパートナーが自社の理想の顧客像と重なっていなければ、せっかく作った制度も動きません。最初の1社から数社は、自社が最も売りたい顧客層にすでにアクセスを持つ相手を選び、そこで制度・登録・見える化の3つを小さく回してみることをおすすめします。うまく回った型を、次のパートナーへと広げていく。この順序を踏まえたうえで、3つの論点を見ていきます。前出のHubSpotのガイドも、パートナープログラムの立ち上げをパートナー向けコンテンツの整備や定期的なコミュニケーション、報酬制度の設計など複数のステップに分けて解説していますが、日本の中堅メーカーやSaaS企業がまず押さえるべき論点を絞り込むと、次の3つに集約できます。

論点1:制度設計、誰にどの型で、どんな条件を任せるか

前段で整理した紹介・リセラー・OEMなどの型のうち、どれを、どのパートナーに割り当てるかを最初に決めます。あわせて詰めておきたいのは次の項目です。

  • :紹介・リセラー・VAR・OEMなど、どれを任せるか
  • 手数料:水準と支払いのタイミング
  • 担当領域:顧客セグメントや地域の線引き
  • 認定要件:パートナーに求める最低限の実績や体制

誰が最初に顧客と接するのか、手数料の水準はいくらか、直販とパートナーの担当領域をどう線引きするか。型を決めずにとりあえず契約書のひな形だけを流用すると、後から役割の重複や、直販とパートナーの間の遠慮のない衝突が発生します。

論点2:案件登録、パートナーの商談をどう受け止め、どう守るか

パートナーが商談を持ち込んだ瞬間、多くの企業がぶつかるのが、直販や他のパートナーとの案件の重複です。自社の直販営業と代理店が同じ顧客に別々にアプローチしていた、複数の代理店が同じ相手に競って値引きを重ねていた、という事態は、パートナーセールスを始めた企業のほぼすべてが一度は経験します。

海外のパートナーセールスでは、この衝突を防ぐために「案件登録制度(deal registration)」と呼ばれる仕組みが標準的に使われています。パートナーが早い段階で案件を登録する代わりに、メーカー側は一定期間その商談を保護し、直販や他のパートナーが横から入らないことを約束する。情報の透明性と商談の保護を交換する制度です。最初に文書化しておきたいのは次の3点です。

  • 登録:いつまでに、何を登録するか
  • 保護:保護される期間と対象範囲
  • 承認:誰が何営業日以内に判断するか

この3点を最初に決めておくだけで、口約束による衝突の多くは防げます。仕組みの詳しい設計手順は「代理店とのバッティングを防ぐ、案件登録制度の作り方」で解説しています。

論点3:見える化、パートナー経由の数字をどう掴むか

制度と案件登録の仕組みが整っても、最後に残るのが数字の掴み方です。パートナー経由の売上が全体のどれくらいを占め、どのパートナーが商談を生み出しているのか。多くの企業がここを月次のExcel報告に頼りますが、報告の鮮度と粒度、確度の定義が代理店ごとにばらつき、経営会議での予測がそのたびに外れるという問題を抱えます。見える化の第一歩は、システムを入れることではなく、次の3点を定義し直すことです。

  • 指標:何を測るか(代理店起点の案件数、受注率など)
  • 定義:「代理店経由」という言葉が指す中身を揃える
  • 頻度:どのくらいの周期で数字を更新するか

見える化を設計するための具体的な手順は「代理店経由の売上が見えない、月次Excel報告の限界と見える化の設計手順」に整理していますので、あわせてご覧ください。

パートナーセールスが育つほど見えてくる、CRMだけでは超えられない壁

制度設計、案件登録、見える化という3つの論点は、多くの場合、既存のCRM(顧客関係管理システム)を起点に手当てできます。パートナーを取引先として登録し、案件に経由したパートナーを紐づけ、報告のフォーマットを揃える。ここまでは、社内のシステムを拡張する発想で十分に対応できます。

しかし、パートナーセールスの規模が育つにつれて、CRMを拡張するという発想そのものが壁にぶつかる瞬間が訪れます。分かりやすいのは、パートナーに自社のCRMへ直接情報を入力してもらう構成を取ったときです。この構成は、パートナー側から見れば、自社の顧客リストを取引先であるメーカーのCRMに差し出していることと同じです。取引が順調に続いている間は問題になりませんが、契約条件が変わったり、パートナーが複数のメーカーを掛け持ちしていたりすると、「どこまでの情報を、どちらの資産として扱うか」を後から整理するすべがありません。

日本の商流のように、特約店の先にさらに販売店が連なる多段階の関係では、この「データの向き」の問題は一段と複雑になります。特約店は自分の先にいる販売店の情報を、そのままメーカーのCRMに渡してよいのか判断できないからです。渡せば自社の顧客資産を差し出すことになり、渡さなければメーカー側の見える化は進みません。この板挟みが、世代交代とともに「情報を上げない」という選択に流れていく背景でもあります。

壁の現れ方は、データの向きだけではありません。ある商談が自社の直販や別の特約店とバッティングしているかどうかを、社内の案件一覧を開かずにパートナーへ回答したい場合、その判定結果だけを返す仕組みは、権限設定の延長では作れません。あるいは、月に一度しかログインしない販売店の担当者のためだけに、有償のシート費用を払い続けられるかという、費用と定着の問題もあります。表れ方は違っても、根っこにあるのは同じです。CRMは「社内の人間が社内の情報を扱う」ことを前提に設計されており、社外のパートナーを住まわせる場所としては、そもそも作られていません。

冒頭で触れた、代理店とのバッティングに疲弊する製造業の営業企画部長も、パートナー制度をゼロから設計するSaaSのパートナー責任者も、突き詰めれば同じ壁の手前に立っています。前者は既存の関係が育ちすぎて壁に近づいており、後者はこれから育てる関係の設計段階でこの壁の存在をあらかじめ織り込めるかどうかが問われています。

もっとも、この壁に当たったからといって、今すぐ専用の仕組みを導入する必要があるわけではありません。パートナーの数が数十社規模までであれば、CRMを取引先管理の延長で使い、共有は定例会や帳票で行うという運用でしのげる場面はまだ多く残っています。壁が本当に効いてくるのは、社外のパートナーに日常的にシステムを使ってもらう必要が生じたとき、あるいは代理店同士や直販との案件の重複が頻発し始めたときです。自社が今どちらの段階にいるかを見極めることが、次の一手を決めます。

ここに突き当たったら、権限設定を細かく作り込んでいく方向ではなく、社内向けのCRMと社外のパートナーとの間に、別の層を置くという発想に切り替える段階です。この構造的な論点は「CRMに社外ユーザーを住まわせることの限界」で、PRM(パートナー関係管理)というCRMとは異なる仕組みの全体像は「PRMとは?CRMとの違いと、代理店管理が「CRMだけ」で破綻する理由」で、それぞれ詳しく扱っています。社内CRMと社外のパートナーのあいだには、別の層が要る。パートナーセールスが一定の規模を超えたときに行き着く認識は、突き詰めるとこの一点です。

まとめ

  • パートナーセールスとは、自社の営業チームではなく外部のパートナーを介して製品やサービスを届ける販売モデルで、チャネルセールス・代理店営業とほぼ同じ現象を指す呼び方です。
  • 直販とパートナーセールスはトレードオフの関係にあり、多くの企業は顧客セグメントや地域で線引きしたハイブリッド型を取ります。
  • パートナーの型は紹介・リセラー・VAR・サービス・マーケットプレイス・OEMなど複数あり、分かれ目は「誰が契約主体で、顧客が誰のブランドを見ているか」です。多くの企業は一つの型に絞らず、段階的に組み合わせます。
  • 日本の商流には、問屋・特約店・販売店会という多段階かつ人間関係に依存した独自の構造があり、世代交代とともに情報が上がってこなくなるリスクを抱えています。
  • 立ち上げの最初の論点は、制度設計、案件登録、見える化の3つです。ツールの選定はこの後に来ます。
  • 規模が育つほど、CRMの拡張だけでは超えられない壁(データの向き、バッティング判定、シート費用と定着など)が現れ、社内CRMと社外パートナーのあいだに別の層を置く発想が必要になります。

パートナーセールスという言葉の定義から立ち上げの論点までを整理してきましたが、実際の設計は自社の商材、既存の代理店網の規模、そして商流の階層の深さによって最適な形が変わります。新しく制度をつくる場合はどの型を軸にするか、すでに走っている代理店網がある場合はどこを再整理するか。自社のパートナーセールスをどの型から始め、どこまでを制度設計に含めるべきか。代理店協業の状況をHubSpotの外に持ち出さず見える化する新しいツール「PartnerLens(パートナーレンズ)」を、現在β版として先行案内しています。ご関心のある方はPartnerLensのβ版ウェイトリストからご登録ください。個別のご相談は、無料相談からお気軽にどうぞ。

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